井上尚弥のラスベガスでの一戦、現地ベテラン記者の予想は「一方的」 来年は中谷潤人との対戦にも期待
世界的な知名度を引っ提げ、再びラスベガスのリングに上がる井上尚弥 photo by Kyodo Newsこの記事に関連する写真を見る
軽量級の最強王者、世界スーパーバンタム級4団体のチャンピオンである井上尚弥(大橋)が5月4日、ラスベガスのT-モバイルアリーナでラモン・カルデナス(アメリカ/29歳/26勝14KO・1敗)と対戦することになった。井上にとって2021年6月以来となる米リング登場。今では世界的な知名度を誇るようになった"モンスター"は、アメリカに本拠地を置くメディア、関係者にも歓迎されることは間違いない。
約1カ月後に迫った井上対カルデナス戦を前に、元ESPNのメインライターだったスティーブ・キム記者に、その見どころを尋ねた。ロサンゼルスに本拠地を置き、現在はフリーライターとして健筆を振るうベテランライターは「対戦相手となったカルデナスがエリート級の選手でないことが残念」と言いながらも、井上の試合をリングサイドで見るのが待ちきれない様子だった。
【井上尚弥のベガス戦の貴重性と価値】
――井上がラスベガスに降り立ち、カルデナスの挑戦を受ける今回のイベントを楽しみにしていますか?
スティーブ・キム(以下、SK):イノウエがアメリカのリングに戻ってくるというのはすばらしいことだ。特にアメリカのファンが、この国でイノウエの戦いをライブで観られるのはこれが最後になる可能性もある。試合予想は一方的であり、もっと上質な対戦相手を見つけられなかったのは本当に残念なことだった。
ただ、たとえそうだとしても、真に偉大なボクサーとはそうそう頻繁に現れるものではない。イノウエ、オレクサンドル・ウシク(ウクライナ/ヘビー級史上初の4団体統一王者)、サウル・"カネロ"・アルバレス(メキシコ/スーパーウェルター級〜ライトヘビー級4階級世界王座制覇)、テレンス・クロフォード(アメリカ/ライト級〜スーパーウェルター級4階級世界王座制覇)といった一部の特別な現役ボクサーたちが戦う姿を見る機会は、実に貴重なもの。彼らはどの時代でも通用する稀有な選手たちであり、そのリング登場を見逃す手はない。
――井上がしばらくアメリカで試合を行なわなかった背景をどう振り返りますか?
SK:イノウエのアメリカでのキャリアを考えると、新型コロナウイルスによるパンデミックが起こったのはとにかく残念だった。2020年4月、一度はジョン・リエル・カシメロ(フィリピン)とのバンタム級統一戦が決まり、チケットセールスは好調だった。にもかかわらず、コロナ渦によって流れてしまった。あの興行のチケット売り上げが爆発的だったという記事を『リングマガジン』に書いたのを覚えている。
その後、2020~21年にイノウエはラスベガスに来たが、1戦目(ジェイソン・モロニー戦)はMGMグランドガーデンの"バブル"(感染予防のための隔離状態)での開催で、もう1戦(マイケル・ダスマリナス戦)はバージンホテルで少数のファンの前で戦った。当時のイノウエは日本からやって来た珍しい呼び物という位置付けだったが、それ以降、真の意味で国際的なスーパースターに成長した。サウジアラビアの"リヤドシーズン"の力なしでも8ケタ(=1000万ドル/約15億円以上)のファイトマネーを稼ぐ稀有な存在になり、その報酬は米ボクシング界が支払える範囲を超えたがために、しばらくはアメリカでのファイトが実現しなかった。
――その流れのなかで、久々のラスベガス戦が実現することの意味をどう考えますか?
SK:今回、イノウエが久々にベガスに来るにあたり、カジノからの大きな支援が得られたということだ。イノウエは今ではボクシング界の輝かしい巨星のひとり。繰り返しになるが、試合自体は好ファイトにならなかったとしても、アメリカのボクシングファンに偉大なボクサーを見るチャンスが生まれたことに意義があると思う。
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著者プロフィール
杉浦大介 (すぎうら・だいすけ)
すぎうら・だいすけ 東京都生まれ。高校球児からアマチュアボクサーを経て大学卒業と同時に渡米。ニューヨークでフリーライターになる。現在はNBA、MLB、NFL、ボクシングなどを中心に精力的に取材活動を行なう