朝倉海の一本負けを「世界のTK」髙阪剛が分析 勝負を分けた「ふたつのポイント」とは? (2ページ目)
――パントージャ選手がペースを落としたのはどのあたりですか?
「パントージャが2回目のテイクダウンに成功したあと、スタンドの展開になりました(開始から1分44秒付近)。そこからペースを少し落としたんです。シンプルに言えば、『遅くなった』。結果、海選手が自分のペースを少し取り戻したようにも見えました」
――パントージャ選手があえてペースダウンをした狙いは?
「2度のテイクダウンで、海選手の寝技の力量がわかったから深追いしなかったのか、序盤のペースが速かったので一度落ち着く時間を作ったのか。いずれにしても、パントージャは長い試合を見据えてペースを調整する能力が際立っていますね。プレッシャーをかけつつ、ピッチを調整しながら試合をコントロールする。それができるからこそ、長いラウンドでも自分のリズムで戦い続けられるんだと思います。
海選手からすれば、パントージャのギアの上げ下げやピッチ調整につき合わされた感じ。試合中に相手が変わったかのようにやりづらかったんじゃないかと思いますね」
――パントージャ選手がギアを下げた1ラウンド後半、海選手の動きはいかがでしたか?
「距離感やリズムが取りやすくなって、『打撃が当たる』と思えた場面もあったと思います。ただ、『またペースが変わるかもしれない』という不安があったのが、詰めきれなかった要因のひとつになったかもしれません」
【勝負を分けたもうひとつのポイント】
――海選手がペースをつかめなかったもうひとつのポイントは?
「これは、パントージャの身体能力にもよる部分だと思いますが、"戻しの速さ"です。体勢を戻すスピードがとてつもなく速くて、試合全体を通してそれが際立っていました」
――オフェンス後やディフェンス後、ニュートラルな状態に戻すのが速いということですか?
「そうですね。序盤、海選手が飛びヒザを狙った場面で、パントージャがシングルレックからバックを取りにいきました。海選手が体を反転させて結果的には分かれる形になりましたが、その分かれ際で、パントージャが構えを整え、すぐにプレスをかけました。海選手も体勢を整えようとしましたが、パントージャのほうが一歩先をいく形でした。
離れ際やスクランブルになったあと、パントージャがすでに体勢を整えて"すぐ来る"のが海選手の視界に入っていたはずです。実際にパントージャは前に出続けて、休む間を与えませんでした。海選手は、フィジカル的にもメンタル的にも大きなプレッシャーを感じていたと思いますし、パントージャからすれば相手にペースを握らせないための戦略だったと思います」
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