山中慎介が語る井上尚弥の圧倒的な勝利「僕とネリとの因縁も終わった」 (4ページ目)

  • 篠﨑貴浩●取材・文 text by Shinozaki Takahiro

【井上を脅かす存在が見当たらない】

――ネリは5ラウンドに2度目のダウンを喫していましたが、かなり効いているように見えました。

「1回目のダウンよりも左フックが深く入りましたね。ネリはあのダウンで一気にペースが落ちました」

――2度のダウンを奪った井上選手の左のショートフック、破壊力やタイミングはいかがでしたか?

「本来ショートフックは、引っかけるようにして相手を回したり、バランスを崩させたりするために使うものなんですが、尚弥の場合はそうする前に勝負を決めてしまう。絶妙なタイミングでコンパクトに合わせて、破壊力も抜群。あのレベルで左のショートフックを使える選手は、世界でもいないはずです」

――井上選手はプロ初のダウンもありましたが、終わってみれば圧倒的な勝利でした。

「試合が終わった後の尚弥の顔を見ればわかりますが、ダウンした1発以外、ほかのパンチはほぼもらっていないと思います。ダウンがあっても冷静で、評価を下げなかった。(ノニト・)ドネアとの最初の試合でも、2カ所を骨折(眼窩底と鼻骨)しながら勝ち切ったことで打たれ強さが評価されましたし、稀有な存在ですよ」

――評価の上がり方は、まさに"天井知らず"です。

「そうですね。それだけの試合を見せてきていますから。スーパーバンタム級での次戦以降の相手が話題にならないですよね。脅かす存在が見当たりません」

――ライバルという点では、スーパーフライ級時代にはプロ46連勝のローマン・ゴンサレスとの対決を望まれながら、ゴンザレスが初黒星を喫して実現せず。バンタム級時代には、WBSSでライバルと見られていたライアン・バーネットがドネア戦で腰を痛めて途中棄権。ビッグファイトが、あと一歩のところで消えていった感があります。

「そうなんですよね。自分の現役時代もそうだったんですけど、ライバルというか、絶対的な他団体のチャンピオンがいない。だから、統一戦につながらなかったんでしょう。仮に尚弥がフェザー級に上げたとしても、気持ちが燃えてくるような相手は見当たらない。フェザー級、スーパーフェザー級時代のパッキャオ、(ファン・マヌエル・)マルケス、(マルコ・アントニオ・)バレラ、(エリック・)モラレスといったライバル関係が尚弥にもできあがってくると、すごく面白くなるんですけどね」

(後編 「頭ひとつ抜けている」バンタム級の日本人王者は? 井上尚弥との対戦が実現したら「極上のカード」>>)

【プロフィール】
■山中慎介(やまなか・しんすけ)

1982年滋賀県生まれ。元WBC世界バンタム級チャンピオンの辰吉丈一郎氏が巻いていたベルトに憧れ、南京都高校(現・京都廣学館高校)でボクシングを始める。専修大学卒業後、2006年プロデビュー。2010年第65代日本バンタム級、2011年第29代WBC世界バンタム級の王座を獲得。「神の左」と称されるフィニッシュブローの左ストレートを武器に、日本歴代2位の12度の防衛を果たし、2018年に引退。現在、ボクシング解説者、アスリートタレントとして各種メディアで活躍。
プロ戦績:31戦27勝(19KO)2敗2分。

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