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レスリング女子・尾﨑野乃香、どん底からの逆襲劇でパリ五輪へ 味わった「天国と地獄」 (2ページ目)

  • 布施鋼治⚫︎取材・文 text by Fuse Koji
  • 保高幸子⚫︎撮影 photo by Hotaka Sachiko

【技術を追求するため週末は山梨へ】

 全日本選抜で敗れてから尾﨑は練習環境を大きく変え、2023年8月からは週末に山梨県の韮崎工業高まで母の運転する車で通うようになった。同校のレスリング部で東京五輪・男子グレコローマン60kg級銀メダリストの文田健一郎の父・文田敏郎監督の指導を受けるためだ。

「以前から韮崎では技術練習を徹底的にやるということは知っていました。実際に一度行ってみたら、『ひとつの技術を極めるためにこれだけ時間をかけてやらないといけないのか』と思いました」

 それだけではない。文田監督は尾﨑の欠点を補うため、相手に足を触らせてから切る、あるいは反対に触らせないでカウンターをとるなど主にディフェンス面の練習などを徹底して行なわせた。指導中には殺し文句を口にすることも忘れなかった。

「教わったことを試合でもできるようになったら、自分の攻めがもっと有効的に使えるようになるよ」

 韮崎工業の男子学生が真剣に練習パートナーを務めてくれたことも大きかった。尾﨑は「学生の大会がないこともあり、文田先生はつきっ切りで面倒を見てくれた」と感謝を口にした。「私にとっては本当に貴重な時間でした。毎週自分のレスリングが進化していった気がします」。

 充実した練習環境を得た尾崎は、昨年9月、大きな転機を迎える。セルビアで開催された世界選手権において、非五輪階級の65kg級代表として出場し、優勝を果たしたのだ。前年度は五輪階級である62kg級で優勝していたため、階級を変更したうえでの大会連覇達成だ。

 尾﨑は素直にうれしかった。筆者は現場で取材していたが、ちょっと控えめな微笑が印象的だった。

「ずっと負け続きだったから、世界一になれたことは本当に気持ちがよかった。勝つことの楽しみがわからなくなっていたので、再び世界一になって日の丸を掲げたときには『私はこれがしたいんだ』という思いになれた」

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