「世界のTK」髙阪剛が語る、日本の総合格闘技が世界と「競り合える日は近い」と考える理由 (2ページ目)

  • 篠﨑貴浩●取材・文 text by Shinozaki Takahiro
  • photo by Getty Images

【世界に追いつくために日本人選手がやるべきこと】

――試合の流れの中で、素早く戦略を切り替えることができる外国人選手は少ない?

「私が見た中では、ですが、思い当たる選手はほとんどいないです。UFCの元ライト級のチャンピオン、チャールズ・オリベイラはすごくうまかったですね。打撃一辺倒で攻撃していたと思ったら、突然組んでテイクダウンといった感じで切り替えていました」

――複数の戦略を持って試合に挑むために、普段の練習で必要なことは?

「まずは、複数の戦略が必要であることに気づくことからですね。多くの選手は、普段の練習やスパーリングで成果が出ると、その方法だけで強くなれる、勝てると思ってしまいがちです。ただ、試合では通用しない可能性がある。それを想定して準備できるかどうかですね。

 今やっている練習に加えて、もうひとつ戦略を用意しようという意識は、なかなか持てないものなんですよ。未来選手も、ケラモフ戦後にフィジカル強化を再開しました。彼は非常に頭がいい選手だから、肌感覚として『今までどおりではダメだ』と思ったんじゃないですかね」

――多くの引き出しを持つためには、全局面で強くなることが必要ですか?

「結局はそうなりますね。特に北米のトップレベルの選手たちは、試合では真っ先に相手の選択肢を潰してきます。相手の選択肢を制限してから、自分の得意な戦術で攻める選手が多いですね」

――相手の選択肢を潰すという点では、昨年末の「RIZIN vs. Bellator全面対抗戦」のクレベル・コイケvsパトリシオ・ピットブルの試合を思い出します。それまで柔術で"一点突破"してきたクレベル選手に対して、ピットブル選手は寝技を警戒して決して深追いせず、距離を取って打撃を当てて勝利しました。

「あの試合は典型的な例ですね。クレベルに『お前は何もできないぞ』と思わせてから、打撃を当てていました。やはり多角的な戦略が必要だと思いますし、全体的に能力を高めなくてはいけません。攻撃の軸となるのは何か。打撃、寝技、テイクダウンと、自分の可能性を常に探る。そのためには、日本の場合はいろんなジムに出向いてトレーニングを積む必要があると思います。

 ただ、日本人選手が世界のトップレベルと競り合える日は近いと思うんです。今後に出てくる若手選手は、いい意味で過去を知らないので、今の総合格闘技がスタンダードだと認識している。そういった選手が出てくることで、ベテラン選手も『このままじゃダメだ』と気づくはず。

 若手選手をちゃんと育てられたら、日本の格闘技界全体がバージョンアップすると思うんですよ。そういった選手の分母が増えれば、飛びぬけた選手が出てくる可能性も高まるわけですから」

――現在UFCで活躍している23歳の平良達郎選手は、いい例かも知れませんね。

「そうですね。平選手は戦略をいくつか持っていて、試合中のインターバルで『次のラウンド、これでいきます』と言っているシーンもよく見ます。戦略を微調整することもできますし、期待の選手のひとりです」

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