小橋健太のひたむきさに馬場も「まいったよ」 がん克服の感動の一戦、母に送り続けた「お弁当箱」の秘話を全日本実況アナが明かした (2ページ目)

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji
  • photo by 日刊スポーツ/アフロ

 この希望に「小橋、わかった」と応じた若林アナは、自らの練習も兼ねて、放送されない小橋の前座試合を実況した。

「番組プロデューサーに、私が"練習"でしゃべった小橋選手の試合のVTRを、『(小橋の母親に見せるために)VHSテープに落としてくれませんか』とお願いしました。そうしたら、プロデューサーも快く応じてくださって。それから、テレビマッチの時は小橋選手の前座試合を実況するようになったんです」

 今ではほとんど見かけなくなったが、「VHSビデオテープ」の長方形の形状から、ビデオテープは"お弁当箱"と呼ばれるようになったという。

「試合会場に行くと、小橋選手が『お弁当箱、ください』と私のところに来ました。2本渡す時は、『今日はドカ弁だ』なんて笑って渡していましたね。小橋選手は、そのビデオテープを、福知山にいる実家のお母さんに送っていました」

【馬場が「まいった」と笑ったひたむきさと真面目さ】

 ひたむきで真面目な小橋の情熱に、若林は「将来、メインイベンターになる」という予感があったという。そのとおりに、小橋がオレンジ色のトランクスを履き、前座から中堅、そして毎週のようにテレビマッチに出場するまで出世した時、こう実況したという。

「オレンジは、ふるさとの夕焼け色のトランクスです。小橋健太、頑張っています」

 一方、1990年5月から「全日本プロレス中継」の実況を担当した福澤朗アナは、そのオレンジに柑橘系の甘酸っぱさを重ね、「青春」をイメージ。そして必殺技「ムーンサルトプレス」を繰り出す際に拳を握りしめることを、「青春の握り拳」と表現した。

「福澤アナにとってのオレンジは『青春』でしたが、私は"お弁当箱"の思い出があったので、『ふるさとの夕焼け』が思い浮かびました。私は『放送は励まし』というのが信念なのですが、小橋選手のオレンジのトランクスから、お母さんへの"励まし"を連想したんです。私と福澤くん、アナウンサーによって感じ方が違ったのは、とてもよかったと思います」

 さらに思い出すのは、練習熱心な姿勢だ。

「小橋選手が馬場さんの自宅に行った時に、部屋にトレーニング器具があったそうなんです。そこで小橋選手は『私にください』と頼んで、いただいたそうなんですよ。そこまで熱心な姿勢には、あの馬場さんも『あいつには、まいったよ』と笑っていました」

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