K-1の「怪物」野杁正明が振り返る進化の過程。鉄壁ガードは「恐怖心」と「目の悪さ」ゆえに磨かれた (2ページ目)

  • 篠崎貴浩●取材・文 text by Shinozaki Takahiro
  • 立松尚積●写真 photo by Tatematsu Naozumi

――野杁選手は2017年6月にスーパー・ライト級(-65㎏)第2代王者になり、翌年8月にタイトルを返上してウェルター級(-67.5㎏)への転向を発表。トレーニングも変わりましたか?

「もともとウエイトやフィジカルトレーニングはあまりやっていなかったんですけど、自重トレーニングを始めるようになって体も大きくなりました。今は自宅にトレーニングルームがあって、ランニングマシーンや軽いダンベル、懸垂ができるマシーンなどの器具も使って体づくりをしています。

 あまり気にせずにいると体重は80kgくらいまで上がってしまいますし、骨格も頑丈なほうだと思うので、ウェルターがベストな階級かなと思っています」

――ふだん、体重が80kgあるというのは、ちょっと意外ですね。

「それでも体脂肪が10%あるかないかくらいなので、けっこう減量はキツいほうだと思います。自重トレーニングもしながら、走り込みをメインに絞っていく感じですね」

試合中は威圧感があるが、インタビューでは終始穏やか photo by Tatematsu Naozumi試合中は威圧感があるが、インタビューでは終始穏やか photo by Tatematsu Naozumiこの記事に関連する写真を見る――階級を上げるまで、フィジカルを鍛える意識はなかったんですか?

「選手によって合う・合わないがあると思いますけど、僕の考えは、練習での動きでつく筋肉で十分。サンドバッグの打ち込みと蹴り込み、必要最低限の走り込み、対人トレーニングを重視していたので、ずっとそのメニューをやっていました。

 ただ、ウェルター級に上げてから、外国人選手を相手になかなかKOできない試合が続いた頃に、記者の方などに『ウェルターでは通用しないんじゃない?』と言われ始めたんです。それが悔しくて。フィジカルを鍛えることが正解というわけではないんですけど、それで相手を倒せれば誰も文句を言わないだろうと思ったんです」

――試合では常に冷静ですね。

「試合以上に、ジム(K-1ジム相模大野KREST)での練習でのスパーがキツいからでしょうね(笑)。昔は緊張もしていたんですけど、プロデビューしてから、気づいたら緊張しなくなっていました。試合は"発表会"みたいな感じ。一生懸命に練習して、試合でお披露目するという感覚なので、試合当日の朝はワクワクしています」

【KREST名物"ガチスパー"で進化】

――KRESTでは、練習でも"ガチスパー"をしていることで有名です。ケガをしてしまうこともあると思うのですが、昨年のトーナメント前にも左ふくらはぎを筋断裂していたと聞きました。

「そうですね。でも、万全な状態で試合をできたことは今まで一回もないと思います。骨にヒビが入っていたこともありました。逆に100パーセントの状態でリングに上がると心配になっちゃうかもしれない。どこかしらをケガしているほうが、いつもどおりで安心できるんじゃないかとも思います」

――スパーは、階級差がある相手とも行なうんですか?

「昔はやっていましたが、ここ最近は体重を合わせています。佐々木大蔵選手(第3代スーパー・ライト級王座決定トーナメント準優勝)、山崎秀晃選手(第5代スーパー・ライト級王者)、藤村大輔選手(HEAT KICKミドル級タイトルマッチ経験者)が相手になることが多いです。下の階級だと、与座優貴選手(極真会館2017年第6回世界ウエイト制 軽量級で優勝)ともやりますね。彼も頑丈なので」

――野杁選手が、日本人で最後に負けた相手が山崎選手(K-1 WORLD GP 2016 -65kg日本代表決定トーナメントの決勝で判定負け)です。今では同門ですが、どんな存在ですか?

「"頼もしい兄貴"という感じですね。プライベートでもよく遊ぶし、ジムでの練習でも本当に頼れる存在です」

――野杁選手といえば、鉄壁のガードも大きな武器です。防御のスキルはいつ頃から身についていったんですか?

「僕は小学2年から空手を始めたんですが、何年かしてキックボクシングも練習するようになって。ふたつの大きな違いは、顔面への打撃があること。最初はすごく怖くて、ずっと亀になってブロックばかりして、たまに避けるといった感じだったんです。その延長というか、気づいたらうまくなっていました(笑)。

 あとは、視力がよくないので、避けるよりもあえてガードの上から攻撃をもらって"触角"にしているところもあります。ガードしているうちに相手のリーチがわかってきて、距離が掴めるんです」

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