柔道・渡名喜風南、苦手なビロティドも撃破で金メダルへ期待。「プレッシャーもないし、他人の評価も気にならない」 (4ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun

 国内の代表枠を得る戦いも大変だったが、金メダルへの道には世界のライバルたちが立ちはだかる。とりわけウクライナのダリア・ビロディドは、絶対に越えなければならない相手になる。モデルとしての肩書を持つほどの美貌と抜群のスタイルを持ち、日本でも人気がある選手だ。身長172㎝の長身で手足が長く、148㎝の渡名喜とは24㎝の差がある。昨年までは、4戦4敗だった。

「ビロティド選手は長身で、組んでみて苦手な選手だなって思っていました。いつも上を見ている感じでしたし、出足が早いんです。手足が長いのでなかなか自分の技をかけられなくて、先にかけられることが多く、いつも守りから入ってしまって......」

 東京五輪に向けて、もはや負けるわけにはいかない。分析を重ね、対策を練り、約1年ぶりの実戦となった今年1月のワールドマスターズ準決勝で世界選手権2連覇中のビロディドと対戦した。

「前はけっこう相手を見て、試合をしていたんですけど、その時は相手を見ずに自分からどんどん攻めていくようにしたんです。道場で172㎝の選手は階級が上になるんですけど、そういう選手と組手をして、体の大きさに慣れるようにしました。相手に持たれてしまうと怖さがあったのでそこを克服し、真正面からではなく、横から勝負しにいくようにしました」

 渡名喜は、終始攻めの姿勢を貫き、一本背負いの技ありでビロディドを破った。コロナ禍で練習が制限される状況の中、相手を研究しつつ体幹を鍛えるなど地道な鍛錬が実を結び、心技体が充実した姿がそこにあった。

「コロナ禍を経て、成長したのは精神面ですね。自分が負けるパターンとして『負けてしまうかもしれない』という心の揺らぎがけっこうあったんですけど、それが今回、試合をこなしていく中でなくなってきたなと思いました。どんな時も『ここチャンスだな』って思うようになったんです」

 今や渡名喜は、非常に完成度の高い柔道家になった。その自信の表れだろうか、東京五輪の代表になってもプレッシャーはほとんど感じないという。

「48キロ級は伝統的な階級ですけど、勝たないといけないというプレッシャーはあまり感じていないです。自分はマイペースなので、そういうのを気にしないですし、他人の評価とかも気にならないんですよ。感情の起伏とかもないですね。あまり感情を表に出さないタイプなので、自分はけっこう喜んでいても、そうは見えないみたいで、周囲からは『わからない』ってよく言われます(笑)」

 図太い神経は、国際試合や大一番には必須だ。

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