髪切りマッチで勝利した中野たむが取材中に涙。女子レスラーの複雑な思いと強さを語る (5ページ目)

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko

 そんな中野にとって、強さとはなんだろうか。

「弱さを知っていること。私は取り立てて身体能力があるわけでもないし、だれもが振り向く美貌を持っているわけでも......いや、宇宙一かわいいんですけど! けど、小さい頃から夢見ていたバレリーナになることもできなかった。アイドルで売れることもできなかった。自分には何もないと思っていたけど、そういう絶望を味わった人のほうがきっと、もう絶対に負けたくないっていう気持ちで闘える。弱い人の心に寄り添える存在でいたいなって......」

 中野の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

「だから......この世界に絶望している人もいるかもしれないけど......そういう人たちの心に届くような......明日、頑張って生きていったら......きっといいことが起こるよって......教えてあげたい......」

 共感が止まらなかった。ずっと迷いながら生きてきて、今もおそらく迷っている。それでも必死に前向きな言葉を発しようとする彼女を見ていたら、私も涙が込み上げてきた。自撮り動画で上目遣いをする彼女も、リング上でボロボロになりながら闘う彼女も、今こうして目の前で泣いている彼女も、「中野たむのすべてが宇宙一かわいい!」と叫びたかった。

 次回の最強レスラーを指名してほしいと言うと、「ジュリアって言いたいところなんですけど、認めたくない」と笑い、岩谷麻優を指名した。これだから女子レスラーの取材は面白い。

「岩谷麻優は、プロレスの天才です。すごく線が細くて、ポンコツだって言われてて、全然芽が出なかった選手なんですけど。負けても負けても最後まで諦めないで、『女子プロレスのアイコン』と言われるまでに上り詰めた。私は岩谷麻優の背中を見て育ったので、彼女が最強だと思っています」

 これまで男子レスラーを中心にインタビューをしてきたが、男性が相手だとどうしても構えてしまう。何度も失敗を繰り返し、取材恐怖症になった。前日は一睡もできず、取材直前にトイレに駆け込み、嘔吐したことが何度もある。それが取材相手と笑い合い、一緒に涙を流す日が来るとは......。

 私は確かな手応えを感じていた。

(岩谷麻優インタビューにつづく)

【プロフィール】
■中野たむ(なかの・たむ)
年齢非公開。3月22日、愛知県生まれ。157cm、56kg。3歳からバレエを習い、高校卒業後はミュージカルの専門学校に進学。アイドルユニットでの活動を経て、「アクトレスガールズ」の練習生となる。2016年7月、プロレスデビュー。全日本プロレス、FMWに参戦し、2017年11月、スターダム入団。2020年10月、白川未奈、ウナギ・サヤカとともに「コズミック・エンジェルズ」を結成し、アーティスト・オブ・スターダム王座を奪取。2021年3月3日、日本武道館大会にてワンダー・オブ・スターダム王座を戴冠した。Twitter:@tmtmtmx

【大会情報】
★中野たむ選手も登場! スターダム春のビッグマッチ
『U-REALM Presents YOKOHAMA DREAM CINDERELLA 2021 in Spring』
日程:2021年4月4日(日) 会場:神奈川・横浜武道館

5 / 5

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る