髪切りマッチで勝利した中野たむが取材中に涙。女子レスラーの複雑な思いと強さを語る (4ページ目)

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko

 25人の主人公がいる映画――。まさにその通りだ。スターダムには様々なバックグラウンドを持った選手が揃っており、その中に必ず観る人にとっての「私」がいる。レスラーと自分を同一視することで、感情移入し、ますます応援したくなる。レスラーを応援することは、すなわち自分を応援することだ。

 中野がプロレスの一番「素敵だな」と思うことは、ファンと一緒に夢を叶えていけることだという。スターダムに参戦してから「たむちゃん、絶対に白いベルト取ってね」と言い続けてくれたファンの夢を、ようやく叶えることができた。夢を叶えたら、またその先の夢ができる。永遠に一緒に夢を叶え続けていくことができる。「だったら私は、永遠に未完成のままでいいのかもしれないという希望が湧いてきた」と目を輝かせる。

 女性ファンが増えてきたことも嬉しい。

「リング上で表現していて、『これ、たぶん女の子だったらわかってくれるんだろうな』と思うことがあるんですよ。女だからこそ生まれる、嫉妬の複雑なニュアンスってあるじゃないですか。それが男性だと『たむ、ジュリアのこと嫌いなんだ』みたいになっちゃう。そうじゃないんだよ!!って。岩谷麻優から独立したときも、私は麻優さんのことすごく好きだったけど独立せざるを得ない状況だったのに、『たむ、麻優を裏切った。悪い奴』みたいに見られちゃったり。そういう複雑な心境を女の子だったらもっとたくさんキャッチしてくれるんだろうなって思います。味方になってほしい」

 筆者がジュリアの名前を出す度に、中野は得も言われぬ悔しそうな表情をした。「嫌い」という単純な感情ではないのも伝わってきた。私は女性ライターとして、女子レスラーのそういった機微を理解したいと思った。彼女たちの味方になりたいと思った。

 女子レスラーを性的な目で見る男性ファンも多いと聞く。嫌だろうなと想像していたが、意外にも「むしろ嬉しい」という。

「『たむちゃんのキワどいところばっかり写真撮ったよ』みたいなことを言う人もいるけど、その人が撮りたいなら撮ってもらっても構わない。自分を必要としてくれてることが嬉しいから、そんなふうに見られることも自己を肯定させてもらっている感じで嬉しいです。嫌なレスラーも結構いると思うけど、私は全然平気。メンヘラのメンタルです。必要としてくれるならなんでもいい、みたいな」

 ファンと支え合って生きている。ファンがいなかったらとっくにやめていた。やる意味もなかった。アイドル時代から応援してくれているファンを武道館に連れて行けたことを、ものすごく誇りに思っているという。

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