時代の寵児となった桜庭和志。ヘンゾ・グレイシー戦で「まさかの結末」 (2ページ目)

  • 佐瀬順一●取材・文 text by Sase Jun-ichi
  • 長尾迪●撮影 photo by Nagao Susumu


 そして次の瞬間、ホリオン・グレイシーがタオルをリング内に投げ入れた。あの絶対に負けを認めないグレイシーに負けを認めさせたのは、桜庭和志という日本人プロレスラーだった。

 この衝撃的な瞬間は、勝利を信じて桜庭の自伝『ぼく。』の制作に奔走し、ホイス戦の当日に何とか発売までこぎ着けた私にとっても格別だった。

 うなだれるホイス、誇らしげに両手を掲げる桜庭、熱狂する観客......。この光景を想定して自伝を作ったのは間違いないが、桜庭が勝った瞬間は本のことなどすっかり忘れ、高田道場のスタッフたちと抱き合って喜んだものだ。

 しかも、桜庭が柔和な笑顔を浮かべながらホイス陣営に握手を求めにいくと、リングサイドにいた「グレイシー一族の長」であるエリオ・グレイシーも、笑顔を浮かべながら桜庭が差し出した手を握り返しているではないか。

 これまで、試合で敗れることがあっても「あれは真の決闘ではなかった」など、グレイシーはあらゆる理由をつけて頑なに負けを認めることはなかった。

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