空手の植草と荒賀が復活V。ふたりが陥っていた雑と不用意の落とし穴

  • text by Sportiva
  • photo by Kyodo News

「この勝ちが自分を安心させてくれました」

 9月8日に行なわれた空手のプレミアリーグ東京大会。組手女子の最重量級となる68キロ超級を制した植草歩(うえくさ・あゆみ/JAL)は、決勝戦の後でほっとしたように話した。

女子の組手68キロ超級を制した植草女子の組手68キロ超級を制した植草 決勝の植草は強かった。今年から、試合時間が2分から男子と同じ3分に延びたが、その序盤から突きが冴えてリードを奪う。相手につけいるスキを与えず、なす術のない相手にさらに攻撃を重ねてポイント差を広げた。結果は5-0。組手女子のエースの活躍に、3階席まで埋まった日本武道館は大いに沸いた。

 復活を懸けて挑んだ大会だった。2016年に世界選手権を制した植草だが、近年は絶対的な強さが薄れていた。昨年の世界選手権は決勝で屈し、今年1月のプレミアリーグ・パリ大会こそ制したものの、同2月のプレミアリーグ・ドバイ大会では3回戦で敗れた。それ以降は大会出場を4カ月ほど控えて「進化させる時間」にあて、強さを取り戻すための鍛錬に励んだ。

 満を持して臨んだ7月のアジア選手権。万全の準備をして、自信も持ち、圧倒的な強さを見せて優勝しようと意気込んでいた。しかし、である。初戦となった2回戦で判定の末に敗退した。

「私がやってきたことは何だったんだろう、とすごく悩んだ。このまま弱くなっていってしまったらどうしよう......」

 狙いを定めた大会でひとつも勝てなかったという現実に、いつも明るく、前向きな植草もそこまで思い詰めたという。

 指導を受けるコーチ、トレーナー、栄養士......。支えてくれる人々のことを植草は「チームアユミ」と呼ぶ。アジア選手権での敗北からプレミアリーグ東京大会までの約1カ月半、チームアユミの中で徹底的に話し合った。それまでは"元世界女王"のプライドが邪魔をして、どこか本音をさらせない自分がいたが、負けたことで変わったという。

「アジアで負けて本当に苦しい、と。わがままになるかもしれないけど、自分の弱さも、違うと思う部分も全部話して、『みんなで五輪に行こう』と伝えました」

 とくに、日本代表の本間絵美子コーチとのコミュニケーションが増えたという。そのことで取り組むべき方向性が明確になり、出した答えは「雑にならないように。ひとつひとつ相手のミスを拾う」だった。

 もともと、中段突きを中心にした攻撃力は折り紙つき。しかし、それに頼りすぎて防御や技が雑になっていた。アジアでの敗北後、攻撃時のモーションが大きくなって相手からカウンターを食らう「雑さ」をなくすことを課題にして取り組んだ。そしてもうひとつ。得意の中段突きが警戒されるのを見越して、上段突きの練習を重ねた。

 その成果が表れたのが、プレミアリーグ東京大会の準決勝だった。相手は昨年の世界選手権決勝で屈した、エレニ・ハジリアドゥ(ギリシャ)。実力伯仲の一戦は、終盤までお互い無得点というしびれた展開に。そして、試合時間残り12秒。ハジリアドゥが我慢しきれず、強引に攻め込んできたところに磨いてきた上段突きを華麗に決めた。

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