川井梨紗子の覚悟。「伊調さんに勝ったからには、世界で負けたくない」
試合終了のホイッスルが鳴り、優勝が決まると、57キロ級の川井梨紗子(ジャパンビバレッジ)は安堵の表情を浮かべながら、客席に向かって小さくガッツポーズをした。
その視線の先には母親と、川井の試合直前に62キロ級の予選で敗退し、五輪出場の可能性が翌日の敗者復活戦次第となった妹・川井友香子(至学館大)がいた。世界王者になりながらもその控えめな喜び方は、まだ不安を胸に抱えている妹への思いやりだったのかもしれない。
日本女子勢で唯一金メダルを獲得した川井梨紗子 9月14日から22日までカザフスタンのヌルスルタンで行なわれているレスリング世界選手権。今大会は、5位以内に入賞して五輪出場枠を獲得、もしくはメダルを手にすることによって自身の五輪内定を決めることができる、最も重要なものだ。
この大会に出場するためには、五輪切符を手にしたい猛者たちを相手に、国内の2大大会を勝ち抜いて来なければならない。川井もまた、世界選手権出場をかけてこの1年、国内でデッドヒートを繰り広げてきたひとりだ。その最たる相手は、前人未到の五輪4連覇を果たした絶対女王・伊調馨(ALSOK)である。
思い返せば、ラスベガスで行なわれた2015年の世界選手権、川井は伊調との対戦を回避し、五輪に出場できる可能性を求めて階級をひとつ上げて63キロ級で出場した。その時は決勝で敗れたものの、リオ五輪本番では初出場にして見事に金メダルを獲得。日本レスリングのメダルラッシュに大きく貢献した。
しかし川井は、次こそは自分の本来の階級で勝負して五輪に出たい、という思いが次第に強くなっていった。
それから4年――。川井はこの1年で伊調と3度にわたる国内での熱戦を制し、ついに自分の主戦場となる57キロ級での世界選手権出場の切符を掴んだ。
「ずっと世界のトップでやってきた馨さんに勝って、世界選手権ですぐポロッて負けちゃったりしたら、『やっぱり梨紗子じゃないほうがよかった』って思われるかもしれない。だから、(伊調に)勝ったからには世界選手権で負けたくなかった。ここで勝たなきゃ五輪代表にもなれないので、絶対勝ちたいという気持ちで試合に挑みました」
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