空手の植草と荒賀が復活V。ふたりが
陥っていた雑と不用意の落とし穴 (2ページ目)
久しぶりに表彰台の中央に立った植草は力強く言った。
「私のチームも間違っていないし、私のやっていることも間違っていなかった」
自信を取り戻した元世界女王は、「来年は金メダルを取ります」という目標を叶えるため、東京五輪まで走り続ける。
もうひとり、劇的な復活を遂げた選手がいる。組手男子84キロ級の荒賀龍太郎(あらが・りゅうたろう/荒賀道場)だ。
男子の組手84キロ級を制した荒賀 暗いトンネルは、植草のそれよりも長かった。2連覇がかかった昨年の世界選手権は1勝もできずに終わり、今年の国際大会でも優勝はひとつもなかった。日本代表の主将という重責も背負う男は、苦しんだ時期をこう振り返る。
「しんどかった。でも、しんどい時期があって当たり前やと思う。そこで終わってしまうのか、また勝っていくことができるのか、自分が試されていると感じていた。耐えながら、もがき苦しんでやっていこうと思っていました」
なかなか勝てない原因はわかっていた。持ち味である、「まばたきをしている間に突かれている」とも評される抜群のスピードを生かした攻撃力を相手に警戒され、自分の間合いに相手が入ってこない。我慢できずに不用意に攻撃したところで、カウンターを喫してしまう。これが繰り返されていた。
「いかに相手に攻撃させるか」が課題だった。間合いを詰めてコーナーに追い込み、攻撃せざるを得ない状況に追い込む。相手が出てきたところに、突きを見舞う――。この理想型を体現したのが準々決勝。2―1で欧州王者を退けた一戦は、いずれの得点もカウンターで放った突きで奪ったものだった。
そして決勝では、さらに完璧な試合運びをして見せた。序盤は相手の攻撃を受けたが、的確な防御で受け流す。1―1で迎えた終盤、攻め込んできた相手に「スピードを信じて飛び込んだ」と左の上段突きを見舞って勝負あり。結果的に相手の反則が累積したことによる勝利になったが、内容を見ても完勝だった。
約1年ぶりとなる国際大会での優勝。試合後、それを記者に問われると「1年ですか......。長かったですね」と大きく息ついた。東京五輪代表争いで頭ひとつ抜け出したが、まだ出場決定までのレースは続く。
「ひとつずつ結果を出して、五輪の舞台への切符をしっかりとつかみ取りたい」
金メダルと共に再び手にした自信は、大きな武器になるはずだ。
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