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リングを去る心優しき王者・内山高志。
笑ってさよなら、涙はいらない (6ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by AFLO

 どうか忘れないでほしい。内山高志というボクサーが強いだけではなかったということを。

 昨年の大晦日、ジェスレル・コラレス(パナマ)との再戦を前に、内山はその決意をこう語っていた。

「同じ選手に2度負けることが何を意味するかはわかっている。タイプとして相性が悪いこともわかっている。ただ、誰かに勝ちたいのではなく、コラレスに勝ちたい」

 そして、「これはまだ記事にしないでほしい」と前置きしながら、自身の反射速度が以前よりは衰えていることを、数年前から感じていると教えてくれた。

 くみしやすい相手を選んで再起戦をすることもできた。それでも、負ければキャリアに終止符が打たれる可能性が高いことを承知で、リベンジに挑んだ。日々、嘔吐するほどのトレーニングで身体を追い込み、ただコラレスにリベンジすることだけを考え、プレッシャーや不安とせめぎ合いながら、再戦までの8ヵ月を過ごした。

 それでも、届かなかった――。

 試合は判定にもつれ込み、結果は1-2でコラレスの勝利。判定を聞いた瞬間の心情を、内山は会見でこう表現する。

「何もなくなったなと感じた」

 その絶望は、どれほどのものだったのか?

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