長谷川穂積、引退から3ヵ月後の心境。
「現役じゃないけど一生ボクサー」 (7ページ目)
だが、長谷川はリングから降りることを決断した。それは、ボクシングという競技への敬意だったのかもしれない。
「やりたければ、やればいい。ただし、チャンピオンだけは別。義務として防衛戦をしなければいけない。自分の事情だけで試合が組めないのがチャンピオンですから。もし、俺が試合をしたいタイミングまで待ってもらえるんやったら、現役を続けていたかもわからないです。でも、そうはいかないのがチャンピオンなんで。自分が納得できるタイミングで試合ができないのであれば悔いが残るということを、僕はこの5年間で学んだ。だから1回、ここで区切りをつける。もし、どうしてもやりたくなったら、そのときに考えようと」
野暮だとわかりながら聞いた。「キャリア最高の瞬間」と振り返る、母に捧げたブルゴス戦の勝利。その試合以降、夢に母が現れたことはあるか?
「それが、ないんですよね。全然出てこない。出てきてほしいんですけどね。もし声をかけられるなら? 『ボクシング、辞めたよ』ですかね。きっと、笑いながら『お疲れさん』って、褒めてくれるんじゃないですか」
そう話すときの長谷川の目は、現役時代は一度も見せることがなかった優しさを帯びていた。
長谷川は引退発表から3ヵ月経った今も、時間が許せば朝には走り、練習も続けている。やはり、聞かずにはいられなかった。
「もう一度、リングに立つ可能性はあるんですか?」
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