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【柔道】復活優勝の浅見八瑠奈。苦悩の1年を支えた言葉とは? (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 中村博之●撮影 photo by Nakamura Hiroyuki

 決勝は山梨学院大学の後輩でもある山崎珠美との対戦。「コンディションはよかったけど、準決勝までは練習どおりにできなかった。決勝ではやっと自分の柔道ができた」と言うように、浅見は本来の動きを取り戻した。

 開始28秒に小外刈りで"有効"を奪うと、その後、体落としで再び"有効"を奪取。最後は残り1分27秒に一本背負いで一本勝ちして優勝を決めた。

「苦しみながらでも優勝できたので本当に嬉しい。これまでは自分を追い込み過ぎる面があったが、去年の経験を生かして、今年はいろんなことを考えながらやってきたので万全の状態で臨めたのだと思う。私ひとりだったら足を止めてしまったと思うが、たくさんの人が一緒に戦ってくれたから、また一歩を踏み出すことができた」

 苦しんだ1年だった。昨年のロンドン五輪最終選考会では、直近の世界選手権を連覇していながら、それがかえってプレッシャーになって敗退。「何のために世界選手権で勝ったかといえば、ロンドン五輪のため。それなのに(選考会の体重別の)1回戦負けでは、世界選手権を連覇した意味もなくなってしまった......」と落ち込んだ。
 
 その浅見を支えたのは「去年のことは絶対に武器になるから」という所属するコマツの中村淳子(旧姓・長井)特別コーチの言葉だった。また、グランドスラム・パリ大会の後には、チームの先輩でもある谷本歩からのアドバイスもあった。

「『3月いっぱいは休むくらいのつもりでいい』と谷本さんに言われて、追い込んでいた去年より練習量を落として、4月からコンディションを上げるようにメリハリをつけた」

 苦悩から抜け出した新しい一歩。浅見は、引退した福見を目標に前を向く。

「福見さんを追いかけてきて今がある。これからは自分が先頭に立って引っ張り、若い選手たちと高め合えるように頑張りたい」

 そんな憧れの選手だった福見とは、ジュニアの頃にはよく一緒に稽古をさせてもらった。
「でも、シニアになってからは、お互い手の内を見せないようにというのもあって、一緒に練習していなかったんです。でも、福見さんが引退したから、久しぶりに胸を借りたいなと思って自分から会いに行った」(浅見)と、合宿で久しぶりに乱取りをした。そして「練習で感じたことを、ノートに書いて記憶した方がいい」と福見にアドバイスされたという。

 これまでの世界選手権で、浅見は福見とともに3度代表になっていた。しかし、今年からは代表を2名出せるのが2階級だけとなり、48㎏級は浅見ひとりの出場となる。それでも今の精神状態なら何の心配もいらないはずだ。

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