錦織圭の助言も取り入れた園部八奏 全豪オープンジュニアを制した17歳の素顔
頂点を射止めたウイニングショットは、左腕の強打で相手を押し込んでから、柔らかく沈めるボレーだった。
全豪オープンのセンターコートで行なわれた「女子ジュニア部門」の決勝戦。沢松和子さん(全仏オープン・ウインブルドン)以来、日本勢として56年ぶりとなる四大大会のジュニア女子シングルスを制した17歳は、コーチや家族が見守る一角に身体をひるがえすと、笑顔を咲かせ拳を振り上げた。
やや控えめなこの歓喜の表出は、6-0、6-1のスコア、わずか54分の圧勝ゆえだろうか。あるいは園部八奏(そのべ・わかな)にとって、これはあくまで始まりにしかすぎない、との思いがあるからかもしれない。
園部八奏は埼玉県出身、2008年生まれの17歳 photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る 園部は3年前から、錦織圭も拠点とする米国フロリダ州のIMGアカデミーを拠点に、日々腕を磨いている。渡米理由も錦織と同じく、日本テニス協会名誉会長の盛田正明氏が設立したテニスファンドの特待生としてだ。
IMGアカデミーは、誰もが「弱肉強食」と称するテニスの虎の穴ではある。ただ、現在19歳の石井さやか、そして18歳の小池愛菜など、日本人も少なくない。
私生活でも優しい兄を持つ園部は、ひと足先に世界で活躍する"お姉さん"たちにも囲まれて、長い手足を伸び伸びと振り抜き、ボールを打ち抜いていたようだ。その天真爛漫さは、石井の目にも「怖い物知らずで、うらやましい」と映ったほどだった。
そんな彼女が、「いつも、みんなのあとをついて回っていたので......寂しいです」と心細そうにつぶやいたのは、昨年9月のニューヨーク。全米オープンのジュニア部門が開幕した頃だった。
グランドスラムジュニアは、18歳以下の選手にとって世界最高峰の舞台。その頂点をともに目指した石井や小池らも、時が訪れれば当然ながら、ジュニアを卒業していく。そのため昨年の全米オープン時には、園部が慕う顔は少なくなっていた。
突如として年長者の立場になった園部の心細さは、遠く日本にいた兄の目にも「寂しそうだな」と映るほどだったという。それでも園部は、この時の全米オープン・シングルスで決勝に進出。決勝では「緊張して力を出しきれなかった」と唇を噛んだが、この世代では自身がすでにトップレベルであることを手応えとして持ち帰った。
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著者プロフィール
内田 暁 (うちだ・あかつき)
編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。2008年頃からテニスを追いはじめ、年の半分ほどは海外取材。著書に『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)、『勝てる脳、負ける脳』(集英社)など。