錦織圭は日本代表で葛藤していた「自分が出ていいのか」...でも、満員の有明コロシアムで幸せを味わいたかった (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki

【監督の添田くんは尊敬できる先輩】

 もちろん、試合によってアップダウンはあるものの、それは「メンタル的なところだと思う」と分析。

「そこだけクリアすれば、かなりテニスの調子はいいんじゃないか、というのは頭にある。それもあり、今回はいいプレーができるはずというのもあったので......」

 自分のなかのイメージと、実際のプレーとの間に生じるギャップ。重ならぬふたつの像にも「葛藤があった」と錦織は言った。

 もどかしさを抱えた勝利の翌日、錦織は綿貫陽介とのダブルスを欠場し、望月慎太郎に出場を譲る形となる。まだ身体は万全とは言えず、シングルス戦後には「連戦は厳しそうだ」と監督には伝えていた。

 ただ、試合に出たいとの思いもぬぐいきれず、最終判断は翌朝まで保留したという。ここにもまた、錦織の葛藤が見える。

 懐かしい景色と幸福感、若手への継承、日本の勝利、身体の状態とテニスの感覚──。それら、せめぎ合う種々の想いが最終的にデビスカップに着地したのは、添田監督率いる日本代表への想いゆえだろう。

「チームの雰囲気のよさは、すごく感じています。添田くんは僕の5歳上(5学年上)で、ずっと同じ場所で戦ってきた信頼感がある。僕が最初に上がってきた時に目指してきた、尊敬できる先輩のひとり。加えてチーム全体、選手全員が、添田くんを好きだなっていうのを感じます」

 添田への揺るがぬ信頼を、錦織はためらうことなく、まっすぐに口にした。

 プレー面で覚えた葛藤は、改善点として明確に立ち上がる。

「リターンのミスと、ストロークのちょっとしたミスが、今日はちょっと多かった。サーブもファーストの確率が悪かったので直したいのと、フォアでもうちょっと攻めたり、今日はバックであまり攻められなかったので......」

 頭に浮かぶ課題を列挙し、終わらぬ自分の発言に「いっぱい出てきちゃいましたね」と、彼は恥ずかしそうに笑った。

 自分への要求が高まるのは、久々に目にした満員の有明コロシアムの光景が、彼にかつての感覚を蘇らせたからでもあるだろう。

3 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る