赤土の王・ナダル、最後の全仏オープン 世界中から愛されたスペイン人は、笑顔で世代交代を受け入れた (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki

【ナダルと縁の深いズベレフとの思い出】

 世界中のファンが注目した、ナダルいわく「高確率で最後だろうが、100%ではない」今年の全仏オープン。その初戦でナダルが対戦したのは、世界4位のズベレフだった。

 公開ドローでこの組み合わせが決まった時、居合わせた記者たちから悲鳴にも似た声が上がる。ズベレフは大会第4シードにして、前哨戦のローマ・マスターズを制してパリに乗り込んできた、優勝候補の一角だからだ。

 ナダルとズベレフといえば、いくつかの縁が思い起こされる。

 ひとつは、2017年1月の全豪オープン3回戦での対戦。当時のズベレフは世界24位の19歳。"次代の王者候補"として、テニス界が期待を寄せる若手だった。

 そしてナダルは、前年のケガから完全復帰を目指す道の最中。オフシーズンに、元世界1位にして同郷の兄貴分的存在であるカルロス・モヤをコーチに雇い、プレースタイルそのものにもメスを入れた頃である。

 この年の全豪オープン開幕前、モヤはドロー表を見た時から、ズベレフ戦がカギになると考えていた。

「ここ数年の彼(ナダル)は、競った試合に敗れ、自信を失っていた。その状況を変える勝利が必要だと思っていた。全豪のドローを見た時から、僕らはズベレフ戦こそがターニングポイントになると感じていた」

 果たしてナダルは、フルセットの死闘の末にズベレフの挑戦をクリアすると、決勝まで駆け上がる。頂上決戦ではロジャー・フェデラー(スイス)に惜敗するも、4カ月後の全仏オープンでは、ひとつのセットも落とすことなく完全優勝。さらに夏の全米オープンまでも制し、9位でスタートした2017年シーズンを、1位に返り咲き終えたのだ。

 あるいは2018年のローマ・マスターズ決勝で、ズベレフを破ったあとのナダルの言葉も忘れがたい。

 当時のズベレフは、ツアーでは目覚ましい結果を残す一方で、グランドスラムでは4回戦の壁を突破できずにいた。その件についての意見を求められたナダルは、次のように断言した。

「もし彼(ズベレフ)がこの先2年間、グランドスラムで結果を残せないようなら、その時には僕のところに来て、『お前はテニスが何もわかっていない!』と言ってくれていいよ」

 ナダルの予言の正しさは、直後の全仏でズベレフが初のベスト8入りしたこと、そして2年後の全米オープンでは、優勝に肉薄したことで証明された。

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