錦織圭「奇跡の9カ月」の再現なるか 復活への道のりで思い出す2018年の快進撃

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Kyodo News

 試合開始前のコイントスに勝ち、サーブもしくはリターンを選ぶ権利を勝ち取ると、彼は迷わず"リターン"を選んだ。

 試合開始直後──、相手のサーブがバウンドするや否や、右腕を一閃。コートを切り裂く鮮やかなリターンエースで、試合が......そして、錦織圭の1年8カ月ぶりの復活劇が幕を開けた。

 何度ケガに見舞われようが、幾度離脱しようが、その度にコートに帰還し、再び高い山に挑むのを楽しむかのように、前へと力強く踏み込んでいく。そんな錦織圭のリターンゲームを見られる喜びに、全身が泡立つような「カリビアン・オープン」の開幕戦だった。

 その復帰戦となる初戦での快勝から、5日後──。錦織は5つの白星を連ね、チャンピオンとしてコート上で両手を天に突き上げた。

復帰戦で優勝した錦織圭。復活劇がここから始まる復帰戦で優勝した錦織圭。復活劇がここから始まるこの記事に関連する写真を見る カリビアン・オープンは「ATPチャレンジャー」と呼ばれるカテゴリーに属し、グレードとしてはATPツアーの下部に相当する。今大会参戦選手の最高ランキングは182位で、200〜400位の選手がボリューム層だ。

 ただ、上位を目指し野心たぎらす新鋭や、時に錦織のような実力者も参戦する。今回、錦織が決勝で対戦したマイケル・ゼン(アメリカ)もランキングこそ1118位だが、昨年のウインブルドンジュニア準優勝者。鋭いサーブと高いポテンシャルを秘める、19歳の若者だ。

 そのゼンを錦織は、本人曰く「めちゃくちゃよかった」プレーで序盤から圧倒する。

 バックで放つ鋭利なウイナーに、相手を翻弄するドロップショットなど、伝家の宝刀を惜しみなく披露。時にやや安定感を欠くスマッシュや、ゲームカウント5-2から追い上げられるハラハラ感も、ファンにとっては実に20カ月ぶりに味わうスリルだ。

 感嘆の息も、手に握る汗も、それらすべてひっくるめて、錦織圭の帰還である。

 思えば、錦織が最後にATPチャレンジャーに出場したのは2018年2月。この時も手首のケガからの復帰過程で、前週のチャレンジャー初戦敗退から、最後は優勝で幕を閉じた。

1 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る