西岡良仁「僕は限界だと思う線を越えられる」。ツアー2勝目、錦織圭に次ぐ快挙達成は勢いや運ではない (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

相手をイライラさせたプレー

 とりわけ、両者のフィジカルの差が顕著に表れたのが、「目に見える形」ならぬ「耳に聞こえる音」である。

 シャポバロフが腕を振るうたび、ボールが破裂せんばかりのインパクト音に、9000人を超える観客から「オオー!」とどよめきの声があがった。対して、フォアでボールを擦るように打つ西岡のインパクト音は、耳に心地よく響くが、衝撃という意味では劣る。

 だが、シャポバロフの強打に呼応し起きた感嘆の声は、試合が進むにつれ、徐々に向かう先が変わっていった。

 牛若丸よろしく快足を飛ばす西岡は、地面とボールの間にラケットを滑り込ませ、あらゆるショットを打ち返す。コートを縦横に駆ける脚と技で、相手に向けられていた称賛の声を、自身へと引き寄せていったのだ。

 第1セットを奪って迎えた第2セットでは、先にシャポバロフにブレークを許す。それでも「緊張したなかで、あのプレーを続けるのは難しいはず」と冷静に分析する西岡に焦りはない。相手のダブルフォルトでブレークチャンスを得ると、続くポイントでは深いロブで相手を押し下げ、すかさずネットへ駆け寄り心憎いドロップボレーをスルリと沈めた。

 もつれこんだタイブレークは、西岡がここまで打ってきた布石や伏線が、すべて回収されたかのような展開。マッチポイントでシャポバロフのフォアがラインを割ったのは、"策士"西岡を象徴するフィナーレ。最終スコアは、6−4、7−6だった。

 ネットを越えて西岡に歩み寄り、ハグで祝福するシャポバロフは、ツアー仲間の多くが認める好青年である。

「まずはヨシ、おめでとう」から始めた"準優勝者スピーチ"で、彼は人懐っこい笑顔を浮かべて続けた。

「君とプレーするのは、本当にイライラするんだ。すっごくいやらしいプレーヤーだよ、君は」

 そのスピーチを受けて、西岡も輝く笑みで言う。

「イライラするって言ってもらえるのは、うれしいな。次に対戦する時も、そうしちゃうよ!」......と。

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