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西岡良仁「僕は限界だと思う線を越えられる」。ツアー2勝目、錦織圭に次ぐ快挙達成は勢いや運ではない (4ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

若い日本人選手に足らないこと

 もっとも「割りきり」にしても、一朝一夕で得られたものではないはずだ。

 昨年終盤はパワーテニスに対抗すべく、異なるラケットを試し、ラケットに貼るストリングスも変え、攻撃的なプレースタイルを模索した。重ねた試行錯誤のなかで、変えられるものと変えられぬものを峻別し、精緻な均衡を取っているのが、今の彼だろう。

 小柄な身体で、一層の大型化・パワー化が進む世界の男子テニス界で勝てている要因とは、いったい何か?

 回答者に解の方向性も委ねたその問いに、彼は次のように実直な言葉を返した。

「そこは僕が、多くの人が限界だと思う線を越えられるからだと思います。それはふだんのトレーニングや練習でも、そして試合中にしても。何が必要かを考えて、とことん極める。そこが、今の日本の若い選手には足りないところかなと思います。

(2017年に)前十字じん帯を切りましたが、そこから戻ってくる時も、食事からトレーニング内容まで、とことん突き詰めてやってきた。その後、パンデミック前に(世界ランキング)49位まで行けたのは、そういう取り組みがあったからだと思います。

 人は、やりすぎてしまわないように自分にリミッターをかけますが、そこをいかに越えられるか。僕は、越えてやってきたと思います」

 今年7月のシティ・オープン(アメリカ・ワシントンDC/ATP500)で準優勝した時、彼は「何を変えたのか?」と問われるたびに、「正直、何も変えてませんよ」と繰り返してきた。

 たしかに、テニスという競技を分析する数式や、極める哲学は、何も変わっていないのだろう。ただ、その蓄積としての変化は、スタート地点と比べれば一目瞭然だ。

 西岡は4年前、前十字じん帯の再建手術から復帰し、涙の初優勝を飾った。今年はATP500という高いグレードの大会で、上位勢を破り決勝へと駆けあがった。ただそれらの結果より、今回の優勝のほうが「価値がある」と彼は断言する。

 それは勢いや運ではなく、「勝つチャンスがある」と感じたなかで掴み取った、歩んだ道の正しさと実力の証明だからだ。

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