170cmの西岡良仁が190cmのハードヒッターを次々と撃破。ATP500準優勝の裏にあった「腹筋の強化」と戦略の変更 (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

新生・西岡良仁を見た瞬間

 ただ、試行錯誤の過程では、もちろん勝てない時が続く。慣れないスタイルや用具との葛藤に、ストレスを溜めもした。

 今年1月の全豪オープン初戦で敗れた時には、「このまま勝てなくなったら、僕、2年以内にテニス辞めると思います」との弱音が口をつく。2年......それは新たなテニスに取り組み始めた時、兄とともに立てた、ひとつの「成功への期限」だった。

 なかなか結果が出ない今季序盤、兄の靖雄は「取り組みが噛み合い出すのが先か、良仁の心が折れるのが先か」との危惧も抱いていたという。

「ショットの質向上が絶対に必要だ」と改めて実感したのは、苦しいクレーシーズン中。

 相手の球威を利用することが困難なクレーでは、ボールを打つことにごまかしが効かない。そのコートで敗戦が続いた時、兄弟はボールの打ち方も細かく分析した結果、「もっと腹筋を使う必要がある」というひとつの答えを弾きだした。そこでトレーナーとも相談し、腹筋強化に力を入れてきたという。

「あの苦しいクレーでの経験があったから、今がある」

 兄がそう振り返った。

 それら1年近くに及ぶ試行錯誤が実を結んだのが、今回の準優勝。とりわけ、ハチャノフとルブレフというツアーきってのハードヒッターから奪った勝利に、取り組みの正しさが花開く。

 ルブレフ戦の勝利後、西岡は「自分のなかでは、めちゃめちゃ打った」と言った。その前日に3時間越えの熱戦を戦ったため、いつものように足を使うのが難しかったという事情もあった。

 結果、ルブレフに打ち負けず、なおかつボールをしっかりコントロールできた事実に、自身の成長を実感できただろう。ハードに打ち合いつつ、緩いボールで揺さぶり、相手のミスも誘う"新生・西岡良仁のテニス"が、ひとつの完成形を見た瞬間でもあった。

 今回の準優勝の結果を受け、兄の靖雄はテニス関係者たちからも「最近の良仁は何か変えたの?」と多く聞かれたという。ただ、良仁を誰よりも長く知るテニスコーチは、「やってきたことは変えていない。これまでの蓄積です」と言い、だからこそ「コーチとしては、それがうれしい」とも言った。

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