170cmの西岡良仁が190cmのハードヒッターを次々と撃破。ATP500準優勝の裏にあった「腹筋の強化」と戦略の変更 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

コロナ後にパワーテニス化

 他選手のツアーコーチもしていた兄が、弟のメインコーチとなったのは、昨年末のことである。

「このままでは、今の男子テニス界で勝っていくのは難しい。新しいことに挑戦しなくては」

 その意識を共有し、険しい道のりを覚悟し踏み出した、二人三脚の旅だった。

 170cmの西岡の身体は、日本人アスリートとしても小柄な部類。ましてや、今や190cm以上が珍しくない男子テニスの趨勢においては、群を抜く小兵だ。

 世界のテニスの変質に西岡兄弟が明確に気づいたのは、新型コロナによるツアー中断が明けた直後だった。

 2020年3月の「パンデミック宣言」以降、世界のテニスツアーは5カ月間の停止の時を迎える。それが明け、同年8月にツアーが再開した頃から、ふたりは折に触れて「世界のテニスが変わってきた」との言葉を口にしてきた。

 その変化の方向性とは、簡単に言ってしまえば、パワーテニス化。ミスの多かった大柄な若手が、ショットの威力はそのままに、精度を著しく上げている。テニス界全体として「ショットの質が上がっている」というのが、最前線に身を置く者のリアルな肌感覚だった。

 そのようなテニス界の変容は、緻密な戦略性と守備力、そしてサウスポーという"ギフト"も生かしたクセ球を生命線とする西岡に、残酷な現実をつきつける。

「駆け引きだけでは、相手のパワーをいなしきれない。守っているだけでは、勝ちあがれない。ならば自分たちも、攻撃力を上げるしかない」

 その事実を認めるのは「怖かった」と、兄の靖雄は認める。ショットの威力を求めれば、これまで築いてきた"西岡良仁のテニス"を崩しかねない。

 それでも、「やるしかないよね」と、ふたりは新たなテニスを模索した。すべては、キャリア最高位である"48位"より上に行くためだ。

 新たなスタイルへの模索は、ショットそのものの質の向上から戦略性、そして用具の見直しにまで至った。ネットプレーの練習に時間を割き、ストロークでは手出しのボールをくり返し打つ。ラケットやストリング(ガット)に関しては、パワーを求めてボールを弾くタイプを試した。

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