ダニエル太郎は勝つことで得た
「境遇」に葛藤。登山で迷う心を整えた (2ページ目)
「もうすぐマスターズも出られるようになる。大会に出るだけで2万ユーロ(250万)ももらえる。テレビにも出て、違う世界にも触れられる。これらを失いたくないという思いが強かった」
このような固執は、自分自身にプレッシャーをかけることになってしまう。
ツアーでは世界ランキング60~70位でも、コーチを雇うお金がない海外選手がいる。その現状を目の当たりにして、自分は恵まれすぎているのではないかという葛藤に苛まれてしまったのだ。
「(自分は)日本でプレーして、スポンサーもついていて、他の人より稼げてラッキー。だけど、そんな(確かな成績を残していないのにお金をもらっている)自分は悪い奴なんじゃないか、という考えも出てきた。(サポートやお金を)もらっているから、もっと勝たなきゃとか、前は考えたことがなかったことが、昨年の終わり頃からちょこちょこと(そういう考えが)出始めていた」
懊悩(おうのう)したダニエルは、父親やメンタルコーチに相談したが、最後は自分自身で答えを見つけるために、6月末、ウインブルドンをスキップしてオフをとり、ひとりでノルウェーに行き登山をした。自然に触れることで自分なりに心を整えると、テニスの面でも気持ちの面でも少しずつよくなっていったという。
「人生こんなもん、苦しいものなんだ。ランキングが上がっても、幸せとかは一瞬しかない。苦しい人生だけど、それ(がわかった)だけで十分だと受け止める感じです」
何やら"禅問答"のような話だが、ダニエルが感じたことは、彼が素直で優しい青年であるからこそ。もちろん悩むのは本人にとってはつらいことだろうが、その時々で感じたことは、ダニエルが今後さらにいいプロテニスプレーヤーになるためには、大事にすべき感情であり、財産にすべき経験だったのではないだろうか。
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