錦織圭、ガスケを退け決勝へ。
10年前の完敗があって今がある
リシャール・ガスケ(フランス)と初めて対戦したのは、10年前のジャパン・オープン3回戦だった。
同年2月に18歳にしてツアー初優勝を成し、日本のみならず世界中のテニスファンが「次代のスター候補」と目するまでになっていた錦織圭の凱旋試合には、1万人に迫る観客と多くの報道陣が詰めかけていた。その一戦に1−6、2−6で完敗を喫した錦織は、「昔からすごい選手として知っていたので、リスペクトしすぎてしまった」と伏し目がちに告白する。
錦織圭はガスケを下してジャパン・オープン決勝へと進出「錦織の敗因は?」
「彼に足りないものはなにか?」
錦織の敗戦の訳を求める問いは、敗者のみならず勝者にも向けられた。それらの狂熱に囲まれる日本の若者に、母国フランスでは「小さなモーツァルト」の愛称で幼少期から知られ、過大な期待にさらされてきた自身の姿が重なっただろうか。色めき立つメディアを諌(いさ)めるように、当時22歳のガスケは言った。
「まだ彼は若いし、経験が必要だ。もう少し待ってあげなよ」......と。
そのときから"ひと昔"に相当する年月が流れた、今年のジャパン・オープン準々決勝――。
自分より9歳年少のステファノス・チチパス(ギリシャ)を迎え撃った錦織は、ウォームアップ時に読み上げられる対戦相手の生年月日に、「自分より10歳近く若いのか......」と、郷愁を伴う衝撃を覚えたという。
同時に胸裏に甦ったのは、10年前の、まだ何者になるかすら不確かだったころの自分。たしかにあのころのほうが、若さゆえの思い切りのよさはあったかもしれない。だが、今はいい意味で落ち着き、いかなる状況にも動じることなく、試合を迎えられている自分がいる。
「いろいろと経験ができて、今があるんだな」
そんな感傷をも胸の隅に抱えながら、彼は若いチチパスを圧倒する。
その先で迎えた準決勝の対戦相手は、奇しくも、10年前の若かった......つまりは未成熟だった日の自分が敗れた、ガスケであった。
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