フェデラーと互角。ウインブルドンに自信深めた錦織圭

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki photo by AFLO

「ウインブルドンと言えば、フェデラーですね。フェデラーが強いというイメージがあります」

 錦織圭がそう答えたのは、2年前のことだった。

 フェデラーのイメージと言えば、ウインブルドン......ではない。「ウインブルドンのイメージや印象は?」と尋ねた際の回答が、「フェデラー」だったのだ。常々、「フェデラーが憧(あこが)れであり、尊敬する選手」と公言していた錦織ではあるが、ウインブルドン7回の優勝を誇る芝の王者への畏敬の念は、かくも大きなものであった。

ウインブルドンへの意気込みを語る錦織圭ウインブルドンへの意気込みを語る錦織圭 そのフェデラーと錦織は、ウインブルドンの前哨戦となるゲリー・ウェバー・オープン(ドイツ・ハレ)の準決勝で、初めて芝の上で相対した。これまで両者の対戦は3回あるが、コートの内訳はインドアハード、クレー(土)、そしてハードであった。勝率は、錦織の2勝1敗。唯一の敗戦は、球足が速いバーゼル大会(スイス)のインドアハードで喫したものだ。まだ、錦織が世界ランキング40位台後半だった、2年8カ月前の話である。

 このバーゼル大会でのフェデラー戦、そして錦織の現コーチであるマイケル・チャンという役者がそろった時、思い出されることがある。それは2011年末に、錦織とチャンが行なった対談での一幕。フェデラーに完敗を喫した衝撃を打ち明ける錦織に対し、チャンは険しい表情を見せ、重々しく次のような言葉を伝えた。

「君はバーゼルで、大きなミスを犯した。それは、フェデラーとの決勝を前にして、『フェデラーは僕の憧れだから、対戦できるのがすごく嬉しい』と言ったことだ。コートの外で尊敬するのは構わない。だが、ひとたびコートに立ったら、相手が誰であろうと、『お前は、俺の優勝の邪魔をする存在だ』というメンタリティでなくてはいけない。過去の実績などは、これから起きる試合には関係のないことだ」

 やがて、ふたりが師弟としてトップ10入りを果たすことなどは、まだ当人たちも知る由(よし)もない日のことである。

 そのチャンが見守る中、先週のハレ大会で錦織は、フェデラーと対戦した。それも相手の城である「芝のコート」での戦いである。

 2年前の対談での内容を踏まえ、今回チャンから授けられた、特別なアドバイスはあっただろうか?

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