【テニス】錦織圭がケガを抱えながら試合に出場したワケとは? (2ページ目)
まず、2大会4週間というスケジュールを見渡したとき、後半のソニーオープンの比重が大きくなるのは必然だった。ケガを癒すには時間が必要だし、何より、昨年ソニーオープンで獲得したポイントを守る必要がある。「BNPパリバオープンでは無理をしない」という方針は、一貫してぶれなかったはずだ。
負傷を完治させるため、BNPパリバオープンを欠場するという選択肢も、なくはなかっただろう。だが、この大会に出ることは、ふたつの観点で重要な意味を持っていた。
ひとつは、リハビリとしての意味合いである。今季から錦織に帯同するトレーナーの中尾公一氏は、「マイアミ(ソニーオープン)が本番」の大前提を踏まえた上で、BNPパリバオープンに出た効能を次のように明かす。
「単に2週間休んで治したとすると、復帰したときにまた同じように痛めてしまう可能性がある。試合に出て、動かしながらリハビリを兼ねて治していくことも必要なんです。悪化しないことは分かっていたので、試合勘を忘れないためにも、出ることは意味がありました」
もし選手が、痛みの原因を理解せずに休んでいたら、また同じ過ちを繰り返す可能性がある。「痛めたから動かさない」では、抜本的な解決にはならないと語る。
そしてもうひとつの重要な意味合いとは、試合で勝利を収め、ポイントを獲得できたこと。冒頭でも触れたように、この大会で錦織は前年比で35点のプラスを得た。現時点で世界ランキング15位につける錦織の総ポイント数は、『2135』。『35点』は割合として2%にも満たないが、15位から18位までのポイント差がわずか『210』であることを考えると、『35』は決して小さな数字ではない。特に、この15位から18位あたりのランキングは、テニスの世界では重要な意味を持つ。グランドスラムなどの大会では、トップ32選手にシード権が与えられるが、その中でも16シード以内にいれば、4回戦までは自分より上位の選手と対戦せずに済む。錦織が目指すトップ10へのステップとして、『16』はひとつのマジックナンバーとなるものだ。
もちろん、いかなる理論を練り、青写真を並べたところで、目の前の試合に勝ちたいのがアスリートの本能である。ソニーオープン4回戦で、第3シードのダビド・フェレール(スペイン/世界ランキング5位)に敗れた錦織は、「守備的になりすぎてしまった。悔しさは残る。もっと善戦したかったです」と表情をこわばらせた。だが同時に、「今回はベストではない状況の中で、2回勝ってここまで来たことは自信になる」と、客観的に現状を見つめ、今回の結果を評価もした。何より、ケガを悪化させることなく手にした『現状維持プラスアルファ』は、トップ10という夢の領域の扉を開く、極めて大きなカギになるものだ。
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