「日本代表が外国人中心になるかもしれない」現役引退した田中史朗が懸念するラグビー界の将来 (3ページ目)

  • 齋藤龍太郎●文 text by Saito Ryutaro

【世界のトップ選手と切磋琢磨してほしい】

──田中さんは同じスクラムハーフでは藤原忍選手(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)を以前から高く評価されています。

 トータルでは小山大輝選手(埼玉パナソニックワイルドナイツ)のほうが上ですが、伸びしろを含めると藤原選手ですね。彼はスピードもありますし(密集などの)サイドを見る能力もありますので、これから本当に楽しみな存在です。エディー(・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチ)が評価している土永旭選手(京都産業大学)のプレーもこれからチェックしていきたいですね。

 あとは髙本幹也選手(東京サントリーサンゴリアス)ですね。リーグワンの新人賞をもらうべくしてもらった活躍でしたし、落ち着いたパフォーマンスでチームをコントロールしていました。サンゴリアスというチームで全試合10番(先発スタンドオフ)というのはなかなかできることではありません。同じポジションの松田力也(埼玉パナソニックワイルドナイツ)や李承信(コベルコ神戸スティーラーズ)と一緒に切磋琢磨していけるプレイヤーだと思います。

──一方で、若い選手の海外挑戦の機会が以前よりも少なくなっています。近年では姫野和樹選手(トヨタヴェルブリッツ)が田中さんと同じくニュージーランドのハイランダーズで、松島幸太朗選手(東京サントリーサンゴリアス)がフランス・TOP14のクレルモン・オーヴェルニュでプレーしました。テビタ・タタフ選手(ボルドー・べグル)もTOP14で奮闘していますが、海外移籍は一時期よりも多くないように感じます。

 チャレンジ精神の問題ですね。今は環境もお金の面でも日本のほうがいいでしょう。僕は「日本のために」という思いだけでニュージーランドへ行きましたが、今はそういうチャレンジをしたくない選手が多いのかもしれません。これからまた海外で挑戦する選手が増えてくれれば、きっと日本のレベルも上がるのではないかと思っています。

 もちろん国内でプレーすることはデメリットばかりではありません。リッチー・モウンガ選手のような世界のトップ選手が来たことによって、選手たちの意識が上がった側面はあると思います。その点はプラスと言えるでしょう。ただ彼らから学ぶだけでなく、切磋琢磨して彼らを抜くことが大事になってきます。

Profile
田中史朗(たなか・ふみあき)
1985年13日生まれ、京都府京都市出身。日本代表75キャップ。小4 でラグビーと出合い、中学で本格的に競技を始める。伏見工業(現・京都工学院高校)でスクラムハーフとして成長し、1年時に花園優勝、3年時は花園ベスト4。京都産業大学時代にはニュージーランド留学を経験するなどさらに成長し、2007年に三洋電機(のちのパナソニック。現・埼玉ワイルドナイツ)でトップリーグ(現・リーグワン)デビュー。翌2008年に日本代表初選出。2013年、ニュージーランドのハイランダーズと契約し日本人初のスーパーラグビープレーヤーとなり、3シーズン目の2015年は優勝メンバーに。ラグビーW杯は2011年大会から3大会連続出場。2015年大会で歴史的勝利を収めた南アフリカ戦でプレーヤー・オブ・ザ・マッチに。2019年の日本大会では日本代表初の決勝トーナメント進出に貢献した。リーグワン2023-24シーズン終了をもって現役を引退。

著者プロフィール

  • 齋藤龍太郎

    齋藤龍太郎 ((さいとう・りゅうたろう))

    編集者、ライター、フォトグラファー。1976年、東京都生まれ。明治大学在学中にラグビーの魅力にとりつかれ、卒業後、入社した出版社でラグビーのムック、書籍を手がける。2015年に独立し、編集プロダクション「楕円銀河」を設立。世界各地でラグビーを取材し、さまざまなメディアに寄稿中。著書に『オールブラックス・プライド』(東邦出版)。

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