「早稲田らしさ」が出たラグビー京産大戦。勝利の陰にあったのはノンメンバー同士の試合「代表として出る責任を感じた」

  • 松瀬学●文 text by Matsuse Manabu
  • 齋藤龍太郎●撮影 photo by Saito Ryutaro

早稲田大・伊藤大祐は京産大戦でトライを決めた早稲田大・伊藤大祐は京産大戦でトライを決めたこの記事に関連する写真を見る 新春2日のラグビー全国大学選手権の準決勝で、早大が関西王者の京産大を34-33で下した。ミスは多々あれど、試合巧者らしく、しぶとく1点差の勝利。1月8日の決勝では、昨季大学王者の帝京大に挑む。

 「ワセダ、強い」。試合後の国立競技場の通路だった。京産大を47年間率いた前監督の大西健さんはそう、小声で漏らした。9度目の挑戦。またしても準決勝の壁に阻まれた。「やっぱり、ワセダはしたたかなんですかね」

 記者会見。かたや、2年ぶりの決勝進出を果たした早大の大田尾竜彦監督は、「よく勝ちきってくれた」と安堵の表情だった。

「試合中に修正することが結構できたゲームだったかなと思います。先行されても焦らない。(成長している部分は)トライをとりきれているところです」

【FSS 、「動き出しの速さ」に集中】

 『FSS』、これが早大の試合テーマだった。Fastest・Set・Speed(ファーステスト・セット・スピード)、つまり最も速いスピードでセットするということだ。全員で瞬時に反応する動き出しの速さ。その体現は、後半14分の自陣ピンチからの一気のトライだった。

 自陣ゴール前でキックチャージを受け、22メートルラインからのドロップアウトでのゲーム再開となった。相手ディフェンスの陣形を見て、センター(CTB)吉村紘は小さく蹴った。「彼ら(京産大)が待っていたところをうまく突けました」。マイボールとして左ラインに展開。

 一気に回して、左ウイング(WTB)松下怜央がライン際を快走。内側にサポートしたスクラムハーフ(SH)宮尾昌典が軽快なランでタックルをかわし、インゴールまで走りきった。ゴールキックも決まって、24-23とした。

 これぞ、早大らしい"そつのなさ"だった。吉村の述懐。

「僕らがロングキックを蹴って、リターン(逆襲)がきたら、自陣10メートルを越えられたあたりでペナルティーを起こしてしまうような雰囲気があったんです。だから、いいタイミングで回したら、そのままトライになったんです」

 それにしても宮尾のトライの嗅覚たるや。よく相手の隙を突きましたね、と声を掛ければ、SHは胸を張った。「チームでコミュニケーションをとりながらやっていますから」と。

【「元旦ゲバ」に燃えた伊藤の逆転トライ】

 準決勝に向けてのマインドの調整は難しかった。クリスマス決戦となった明大戦に勝利して1週間。フランカー(FL)の相良昌彦主将によると、ライバルに雪辱したことで、達成感からか、練習でからだが動かず、声もあまり出ず、不安を感じていたという。

 その空気をガラリと変えたのが、試合前日に行われた恒例の『元旦ゲバ』だった。試合に出ないメンバーがBチームとCチームに分かれて対戦する。その年度最後の部内マッチだった。ちなみに、Bチームのゲームキャプテンを務めたのが、大病を乗り越えた4年生のSH小西泰聖だった。

 元旦ゲバのプレーには、「アカクロ(一軍ジャージ)を着て"荒ぶる"を歌う」という早大ラグビー部の使命、最後まで戦う4年生のプライドが込められている。みんな、からだを張った。3年生のスタンドオフ(SO)伊藤大祐は見ていて、胸が熱くなったと振り返る。

「たぶん、(ノンメンバーの)4年生は最後の試合ですよね。すごく激しいタックルだったり、熱のこもったプレーだったりを見て、代表として試合に出る責任感を感じたのです」

 その伊藤は夏合宿の帝京大との練習試合で左腓骨(ひこつ)骨折を負い、ようやく復帰。準々決勝に続き、SOで先発出場した。神奈川・桐蔭学園高を全国制覇に導いた逸材。この日の京産大戦では、後半序盤、1年生SOの野中健吾が交代で入ると、伊藤はフルバック(FB)の位置に移った。

 相手ペナルティーゴール(PG)で一時逆転されたあとの後半27分だった。スクラムからのアタックの7フェーズ目。ラックから左に展開、野中からボールをもらうと、伊藤はパスをせずに鋭利するどいステップで縦に切れ込み、タックラーを引きずりながら中央に飛び込んだ。

 トライだ。ゴールも決まって、31-26と再び逆転した。伊藤の特技は「人間観察」。視野が広い。ある程度のスペースがあれば、走りきることもできる。伊藤は言った。

「勝負所でボールがくると思っていました。そこで、しっかり(トライを)とりきるマインドはありました。ケガから復帰して、トライができたのはすごく自信になります」

 このあと、CTB吉村が左足の打撲の痛みを押しつつも約30メートルのPGを蹴り込み、34-26とリードを8点に広げた。結局、これが効いた。

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