早大が重圧を乗り越え、東洋大に逆転勝利。ゲーム主将の吉村紘「正直、コワかった」 (2ページ目)

  • 松瀬学●文 text by Matsuse Manabu
  • 齋藤龍太郎●撮影 photo by Saito Ryutaro

【安定感が増したゴールキック】

 吉村がPGを蹴り込んだあとの後半26分、スクラムから左右のワイドに振り、大ケガから復帰した交代出場のフルバック(FB)伊藤大祐からパスを受けた俊足ウイング(WTB)槇瑛人が右隅に飛び込んだ。吉村が難しい位置からのゴールを蹴り込み、24―19とついに逆転した。

 伊藤の吉村評。

「(吉村は)いつも的確な指示を出してくれます。やりやすい。協調性があるから、いい関係で試合ができます」

 それにしても、吉村のゴールキックは安定感を増した。この日は4ゴール2PGとノーミスだった。「毎回、一定のリズムで蹴れているのがいい」と言う。「僕のルーティンのなかで、軌道をイメージする時間があるんですけど、そのイメージどおりにボールが飛んでいってくれているんです」。ボールをポイントに置いてから、3歩下がって、3歩左横に動き、球の軌道を確認し、上体をいい姿勢にして、体をひねってリズムを作る。「"イチ、ニイ、サン、シイ、ゴ"で蹴っています」と説明してくれた。

 これも、ふだんの練習の成果だろう。とくに敗戦からの1週間。極度の重圧のなか、試合メンバーだけでなく、監督、コーチ、そしてノンメンバー全員が一丸となって練習に取り組んだ。とくに4年生の献身たるや。吉村は言った。

「チーム全体としての準備が実った勝利かなと思います」

 試合終了直前のPGでは、吉村は蹴り込んだ後、右手を振り下ろし、両手を挙げてガッツポーズ、喜びを爆発させた。ようやく東洋大のコワさが消えた瞬間だったと打ち明けた。

「相手にスコアされて試合が止まった時などは、正直なところ、焦りがありました。でも、ノーサイドで、初めてホッとしたというか、プレッシャーから解き放たれたんです」

【サッカー日本代表の進撃からエネルギー】

 大田尾竜彦監督も同じ思いだっただろう。苦しんでの逆転勝利で言葉に安堵感を漂わせた。

「選手はプレッシャーがあったなかで、それに打ち勝ったことがすごく誇らしい。チームとして大きく成長できるような試合だったし、準備だったんじゃないかと思います」

 巷では、サッカーワールドカップでの日本代表の快進撃が話題となっていた。そのニュースを追っていた吉村は言う。

「ラグビーもサッカーのようになればいい。日本代表のスペイン、ドイツを破ってのジャイアントキリングというところは、僕たちのチャレンジャーという立場と似ています。僕らの、いいエネルギーになりました」

 さあ、これで12月25日の準々決勝(秩父宮)は、宿敵明大との再戦となった。昨年度はこの準々決勝で明大に敗退し、シーズンが終わった。吉村はその悔しさを忘れない。その敗戦ゆえ、今年度のチームスローガンが「Tough Choice(タフ・チョイス)」となった。吉村が説明する。

「局面、局面で、ハードなところを選んでいこう、という意味です。練習ひとつひとつにしても、試合ひとつひとつ、プレーひとつひとつにしても、きついほうを選んでいこう。そうすれば、必ず、いい結果が待っているって」

 吉村は175センチ、84キロ、戦術眼に長けているクレバーな選手。幼稚園の時からラグビーを始め、福岡・東福岡高の時はU17日本代表にも選ばれた。50メートルが6秒3。早大では1年から公式戦に出場し、大学日本一を経験した。大事にしている言葉が「平穏な海は優秀な船乗りを育てない」である。逆境だったり、厳しい状況だったりを、ポジティブにとらえて努力を続けることがエネルギーになる、成長を促すということだろう。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る