水谷隼はもう独りじゃない。
Tリーグがもたらしたと進化と不変の志 (2ページ目)
頂上決戦の勝敗を分けたもの
ファイナルの試合を振り返ると、勝負の綾は第2マッチの選手起用にあった。
リーグ戦での両チームの対戦戦績は、木下の4勝3敗。このうち、5試合がヴィクトリーマッチにもつれこんでいる。水谷と張本のWエースを軸に、大島祐哉や松平健太ら日本のトップ選手を擁する木下に岡山が肉薄できたのは、常に第1マッチのダブルスで先手を取ってきたからである。ダブルスだけを振り返れば、岡山は木下に全勝している。
なかでも、この日ペアを組んだ森園と上田仁のペアは、リーグ戦で15勝3敗と圧倒的な強さを誇っていた。岡山の白神宏佑監督はリーグ最終戦のあと、ファイナルに向けて「ダブルスがカギになる」と明言していたが、木下の邱建新(チュウ ジェンシン)監督はさらにその先の展開を読んでいたのだろうか。
第1試合のダブルスは、岡山の思惑どおりの結果になった。森園、上田ペアが、2017年男子ダブルス全日本王者の水谷、大島ペアを11-9、7-11、11-9のフルゲームで下して先勝した。
だが、続く第2マッチのシングルスで、白神監督が「99%予想していなかった」局面を迎える。木下は2番手に、シーズン途中にチームに加入した侯英超(ホウ エイチョウ)を起用したのだ。団体戦における"読み違い"は、ベンチや選手に少なからずの動揺を与える。
その元中国代表のカットマンに対し、岡山の吉村和弘も粘ったが、最後は百戦錬磨の候が吉村のパワーを抑え込み3-1で勝利。この勝利が単なる1勝以上の価値があったことは、水谷の試合後の述懐が証明している。
「ダブルスで負けるのは想定内でした。勝ったらラッキーと思っていたぐらい。でも、2番手に侯を置くオーダーは賭けでもあったと思います。0-2で回ってくることも想定して準備していたけど、候が勝ってこっちに流れがきました」
流れに乗った水谷のプレーは圧巻だった。
韓国のエースで、世界卓球2017の銅メダリストでもあるイ・サンスを、11-9、11-8、11-8のストレートで一蹴したのだ。
水谷は「イ・サンスとは相性がよく、自信もありました。YGサーブとバックへのロングサーブがよく効いたのが勝因」と試合を振り返ったが、際立ったのは、以前は苦手意識を公言していた台上でのプレーである。
10代の頃、水谷は台から離れ、時にアクロバティックな動きでラリーを展開して多くの卓球ファンを魅了した。天才の称号はそうした彼にしかできないプレーになぞって与えられた要素が大きかったが、やがてそのプレースタイルは壁にぶち当たる。台にくっついた前陣から、速い打球点で勝負をしかけるスタイルが世界の主流になり、水谷の卓球は「美しいが中国選手には勝てない」と指摘されることもあった。
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