2019.03.21

水谷隼はもう独りじゃない。
Tリーグがもたらしたと進化と不変の志

  • 城島充●文 text by Jojima Mitsuru
  • 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

「この10年間、ずっとひとりだったので、チームメイトができて精神的にすごく楽になった」

 Tリーグ初代王者となった木下マイスター東京のエースで、シーズンMVPに輝いた水谷隼は、国内初のプロリーグが自らにもたらした変化をそう語った。”天才”の称号とともに孤高の影を引きずり続けた五輪メダリストの心象風景を中心に、3月17日に両国国技館を熱くしたプレーオフ・ファイナルの”頂上決戦”を振り返りたい。

木下をTリーグ初代王者に導いた水谷(中央)Wエースの抱擁

 水谷が「昔の自分だったら考えられない」と苦笑したのは、シーズン1位の木下が、同2位の岡山リベッツを破って初代王座を手にした直後のシーンだった。

 戴冠に大手をかけた第4マッチのシングルスに登場した張本智和が、岡山の森園政崇を大接戦の末に3-1で破った次の瞬間、両国国技館を埋めた5120人の観客が目にしたのは、ベンチから真っ先に飛び出し、世界ランキング4位に名を連ねる15歳の”怪物”に抱きつく水谷の姿だった。

「水谷さんが最初に駆けつけてくれてうれしかった」と張本は振り返ったが、水谷自身ではなくても、例えばリオデジャネイロ五輪で彼がシングルスで銅メダル、団体戦でもチームを銀メダルに導いた時、3年後にこんな光景を目にすることを予想できた関係者はほとんどいなかったのではないか。当時のふたりの距離感はもちろん、照れ屋でどこかシニカルな一面がある水谷の性分はよく知られていたからだ。

 リオ五輪後の2016年12月、筆者は専門誌の企画で、南アフリカで開催された世界ジュニアを制して帰国したばかりの張本と、五輪メダリストとして”時の人”になった水谷の対談に立ち会った。この時の張本は水谷に対する憧憬(しょうけい)の気持ちを口にするばかりで、14歳の年齢差をそのまま感じさせる言葉のやりとりに終始し、対談原稿をまとめるのに苦労した記憶がある。

 それだけに、後の世界選手権や全日本選手権で憧れの人を破り、快進撃を続ける少年の成長スピードには驚かされてばかりだったが、この日のファイナルで”変化”が目についたのは、水谷のほうだった。