中国キラー・伊藤美誠をつくった「バケモノのような選手」にする訓練 (4ページ目)

  • 城島充●文 text by Jojima Mitsuru
  • photo by Reuters/AFLO

 関西アカデミーでの練習を何度か見せてもらったが、かつての「訓練」を連想させる雰囲気はまったくなかった。そこで目にしたのは、とにかく自由で、自分で考え、そして楽しそうにラケットを振る伊藤の姿である。

 その空気を肌で感じている練習パートナーの坂根は「伊藤選手のあの独創性、相手の意表を突くプレーは遊び心というか、卓球を楽しむ心から生まれている」と言う。

「真剣に練習してるんですが、どこかで"遊びの延長線"という意識もあると思います。とにかく卓球が大好きで、楽しみながらラケットを振っていることが僕にも伝わってくる。楽しいからどんどん新しい発想が湧いてくるし、楽しいから試合でも緊張しない。それが世界選手権決勝の舞台でも変わらないことを、彼女は証明したと思います」

 もちろん、伊藤が雌伏のときを過ごしたことも忘れてはいけない。15歳で出場したリオ五輪で卓球競技における最年少メダリストになった後、不調に陥った。勝利から遠のくなか、天真爛漫な彼女から笑顔が消え、練習中に思い詰めた表情を見せる姿を周囲は何度も目にしている。

 しかし、このときも美乃りさんは「美誠は今、結果を急がなくてもいい」と、印象的な言葉を残している。

「スポーツにはピーキングも大切です。焦ることはありません。今こそ、原点に戻って土台を見つめ直すチャンスだと思っています」と。

 卓球選手としての土台を作り上げた原点と、自由な感受性――。

 現時点で総括すれば、この2つの要因が、伊藤の唯一無二なプレースタイルを育んだのかもしれない。

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