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NBA伝説の名選手:デリック・ローズ 史上最年少MVPの栄光と度重なるケガとの闘いで人々の心を揺さぶった「シカゴの英雄」 (3ページ目)

  • 秋山裕之●文 text by Akiyama Hiroyuki

【実働7シーズンのブルズで永久欠番となった理由】

 全盛時のローズの魅力は、なんと言ってもそのクイックネスと跳躍力だった。

 ボールを持った時のスピードが速いだけでなく、方向転換も素早く、瞬時にトップスピードへ切り替えることができ、相手守備陣の合間をすり抜けてリングへの最短距離を突き進んだ。

 爆発的かつ滞空時間の長い跳躍から強烈なダンクやダブルクラッチを決めて会場を沸かせたほか、チームメイトへの鋭いアシストや巧みなフェイク、速さを逆手に取ったムーブで相手を翻弄して点を奪ってきた。

 レギュラーシーズン通算723試合で、ローズはキャリア平均30.5分、17.4得点、3.2リバウンド、5.2アシストを記録。キャリアのなかでリーグを代表するスーパースター、先発の一角、シックスマン、脇役、さらにはメンターとなって若手をサポートするなど、さまざまな役割をこなしてきた。

 ローズが若手時代から入念にストレッチへ取り組み、身体のケアを怠らずにいれば、もしかするといくつかのケガを回避し、もっと長くトップレベルのままプレーできていたのかもしれない。「もしローズが2012年にヒザを負傷していなかったら......」、「相次ぐケガに見舞われていなければ今ごろどんなキャリアになっていたのか......」という思いが、多くの人の頭の中を駆け巡ってきたはず。

 だが、当の本人は引退後に「そのことについてはもう考えていない。最後にそんな話をしたのは数年も前のことなんだ」と、前を向いていた。

「誰にもわからないでしょ?  けれど同時に、もしあのままの自分だったらひとりの人間としての自分を見つけ出せず、愛もなく、ただただゲームに取りつかれていたと思う。自分のアイデンティティを見つけるにはほど遠かっただろうね」

 身体能力の面で全盛時にあったローズは、度重なるケガによって選手としての勢いが下降してしまったことは否めない。それでも、この男が再びバスケットボールをプレーすべく必死にもがき、つらいリハビリに耐えて何度もコートへ戻ってきたからこそ、ファンや選手たちの心を揺さぶり、感情を突き動かしたのではないだろうか。

 ブルズは8シーズン(実働7シーズン)在籍した功労者のキャリアを称えるべく、2025年1月4日のニックス戦のハーフタイムで"デリック・ローズ・ナイト"を開催。そこでローズはファンの前で感謝の思いを口にし、元同僚のジョアキム・ノア(元ブルズほか)から「君はMVPなだけじゃない。僕らにとってのチャンピオンなんだ」と言われて思わず涙をこぼした。

 今後、元MVPのローズが殿堂入りを果たすことができるかは不透明。ただ、ブルズはこのセレモニー当日にローズへ背番号1が永久欠番になることを伝え、来シーズンにセレモニーを開催することを発表した。

 シカゴで生まれ育ち、ブルズという球団の期待と未来を背負って一生懸命プレーしてきた男の永久欠番入りには、誰もが納得するはず。コートから去ったとはいえ、ローズの人生はこれからも続く。バスケットボールを心底愛し、それを体現してきた男のセカンドキャリアを見届けていきたい。

【Profile】デリック・ローズ(Derrick Rose)/1988年10月4日生まれ、アメリア・イリノイ州出身。2008年NBAドラフト1巡目1位。
●NBA所属歴:シカゴ・ブルズ(2008-09〜2015-16)―ニューヨーク・ニックス(2016-17)―クリーブランド・キャバリアーズ(2017-18)―ミネソタ・ティンバーウルブズ(2017-18途〜2018-19)―デトロイト・ピストンズ(2019-20〜2020-21途)―ニューヨーク・ニックス(2020-21途〜2022-23) ―メンフィス・グリズリーズ(2023-24)
●シーズンMVP1回(2011)/オールNBAファーストチーム1回(2011)/新人王(2009)

*所属歴以外のシーズン表記は後年(1979-80=1980)

著者プロフィール

  • 秋山裕之

    秋山裕之 (あきやま・ひろゆき)

    フリーランスライター。東京都出身。NBA好きが高じて飲食業界から出版業界へ転職。その後バスケットボール雑誌の編集を経てフリーランスに転身し、現在は主にNBAのライターとして『バスケットボールキング』、『THE DIGEST』、『ダンクシュート』、『月刊バスケットボール』などへ寄稿している。

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