パリ五輪女子バスケ日本代表・宮崎早織が東京五輪の悔しさを糧につかんだ正PGの座 速さの武器を活かし世界を「かき回す」 (3ページ目)

  • 永塚和志●取材・文 text by Kaz Nagatsuka
  • 加藤誠夫●写真 photo by Kato Yoshio

【まっさらなオリンピックのコートへ】

宮崎はパリ五輪のコートで、持ち味を発揮して世界をかき回すつもりだ宮崎はパリ五輪のコートで、持ち味を発揮して世界をかき回すつもりだこの記事に関連する写真を見る 宮崎はエキセントリックなキャラクターで、チームに明るさをもたらす存在だ。リーダーシップについてはチームの皆が持っているとした彼女だが、馬瓜エブリン(デンソー アイリス)と並んで笑顔をもたらす特殊な能力を有している。

 昨秋のアジア競技大会前の合宿中のメディア対応で、温厚な恩塚HCに対して冗談めいた話を言うようなことはあるのかと問われた宮崎は「恩塚さんは優しくて静かな方なので、私みたいにぶっ飛んでいる奴の話を聞いていると、『そうなんだ』みたいな感じで終わっちゃいます。『なにやってんすか』とか言っちゃうと多分『ごめん』みたいになっちゃいそうで怖いから、ちょっとテンションを抑えながら話します」と、愉快そうに話していた。

 チームのトップであるHCとの裏話で、選手からこのような話が出てくることもあまりないように思われるが、宮崎からはいくらでも出てきそうだ。

 勝っては笑い、大事な試合に負ければ泣く。日本の女子バスケットボール界でもっとも情緒の振れ幅が大きいのは間違いなさそうだ。しかし、だからこそ、目が離せない。スポーツを見る者が選手たちのプレーだけでなく、言動や表情を楽しんだり、刺激を受けたりするとすれば、宮崎という選手は確実に何かを提供する存在だと言える。

 プロのスポーツ選手は、毎試合多くのファンの前でプレーをし、そして時に、指導者の厳しい指導を受けるなかで、自然と多少のことでは動じない心が備わってくる場合が多い。転じて言えば、そうでなくてはトップの世界で生き抜いていくことなどできないからだ。

 ところが宮崎は、緊張をしてしまうし、外国に行ってプレーをするのが好きではないと言ってしまうなど、自身の弱さをまったく隠す様子がない。「ぶっ飛んでいる」ところはあるにせよ、正直であり、虚勢を張ることがない。

「すごく不思議な感じではありますけど」

 2度目のオリンピックを、今度はメインのPGとしてプレーすることについて聞かれると、宮崎は特徴的な、口角を上げての笑顔でそう答える。

「でも、今まで頑張ってきた成果なので、自信を持ってオリンピックに臨みたいなと思っています」

 吉田や町田のように、うまくゲームをコントロールはできないかもしれない。それでも、宮崎が今の日本の堂々たる正PGだ。役割は、本人の言葉を借りれば「かき回す」こと。オフェンスではドリブルからコートを切り裂き、ディフェンスではしつこく相手に密着してプレッシャーをかける。

 それがより効果的に発揮されれば、日本代表にとってよいことが起こる。

 宮崎が2度目のオリンピックで、まっさらなコートに足を踏み入れようとしている。

プロフィール

  • 永塚和志

    永塚和志 (ながつか・かずし)

    スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019W杯等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。著書に「''近代フットボールの父'' チャック・ミルズが紡いだ糸」(ベースボール・マガジン社)があり、東京五輪で日本女子バスケ代表を銀メダルに導いたトム・ホーバスHC著「ウイニングメンタリティー コーチングとは信じること」、川崎ブレイブサンダース・篠山竜青選手 著「日々、努力。」(ともにベースボール・マガジン社)等の取材構成にも関わっている。

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