「理想の上司」トム・ホーバスHCが説く男子バスケ日本代表のやるべきスタイル。「強くなるための魔法はない」 (5ページ目)

  • 永塚和志●取材・文 text by Kaz Nagatsuka
  • photo by AFLO

 私がHCになってからの女子代表を思い出していただきたい。女子チームも最初は負け続きでした。2018年の女子ワールドカップでは中国に負けて、スペインには前半だけで20点差をつけられて敗れました。高いレベルで戦っていると、それくらいの差がついてしまうこともあるのです。

 男子代表は今、学びの段階にあり、自分たちがどの位置にいて、何ができるかを確かめているのです。強くなるための魔法はありません。コーチをし、プレーをする。そして互いを学んでいく。そうすることでチームが出来上がっていくのです。

 私が男子代表のHCに着任したことで、何か魔法を起こしてくれるのではないかという期待があったように思いますが、そのようなものはないのです。我々はまだ中国のようなチームに勝つ準備ができていなかっただけ。ですが、この先は違いますよ」

---- 中国に負けたのは、準備が足りていなかったと。

「中国には大差をつけられて負けてしまいましたが、これだけの大敗は私がペンシルベニア州立大で選手だった時、デイビッド・ロビンソン(元NBAサンアントニオ・スパーズ)の海軍士官学校にボコボコにやられて以来でしたよ(苦笑)。

 コーチになってからは最大の敗戦で、これだけ成す術がなかったのも初めてでした。ですが、今後はよくなっていきますよ。ポジティブな気持ちで、ハードにやっていきます」

---- 強くなるのに近道はない、ということですね。

「すばらしいチームを築くのに近道はありません。NBAのウォリアーズを見てください。何年か前に複数の優勝を遂げながら、その後はケガ人が出て、ここ2年ほどはひどい状態にありました。しかし今は、再びすばらしいチームへと戻っています。ですからファンの皆さんには、今しばし耐えていただきながら我々をサポートしてほしいです」

(後編につづく)

【profile】
トム・ホーバス
1967年1月31日生まれ、コロラド州デュランゴ出身。ペンシルベニア州立大学を卒業後、ポルトガルリーグを経てトヨタ自動車ペイサーズ(現・アルバルク東京)に入団。4年連続日本リーグ得点王に輝く。1994年にはNBAアトランタ・ホークスでプレー。2001年に現役引退後、指導者となって2010年に再び来日。女子バスケットの世界で実績を積んで2017年に女子日本代表HCに就任。2020年東京五輪で銀メダル獲得に貢献し、2021年9月より男子日本代表HCを務める。現役時代のポジションはSF。

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