角田裕毅の16位には大きな価値があった。不協和音の空気に耐え、弱さと向き合い、そして克服した (2ページ目)
すべてのグリップが足らない
レース中盤、スタートで他車と接触して後方から追い上げてきたガスリーに対し、ポジションを譲れという指示が角田に出された。フロントウイングとフロアにダメージを負ってペースが上がらないガスリーよりも遅かった。
前戦イギリスGPでチームメイト同士のバトルを巡って論争があり、オーストリアGPの予選でもアタック直前にガスリーが角田を追い越したことで、角田はQ3進出のチャンスを逃した。
チーム内に不協和音が響き始めていただけに、緊張感も漂うチームオーダー発令だったが、角田は大人しくこれに従った。
「それはもう全然、妥当な指示だなと思いました。大きなダメージを負っていたはずのピエールと比べても、僕はもう完全にペースが遅すぎたので。(予選後は)チーム内で話し合って、チームとしては何が起きたかわかっていますし、今後ああいったことが起きないようにある種の合意も交わしましたし、僕としてもある程度は納得しました。チームとして次に進みたいなと思います」
土曜の夜から再びマシンの徹底的なチェックを行なったものの、問題は明らかにはならなかった。つまり、スプリントレースと同じ状態のまま決勝に臨み、3倍の燃料を搭載して3倍の距離を走らなければならない。
決勝がつらく絶望的なレースになることは、この時点でわかっていた。またフラストレーションが高まれば、冷静さを失い、集中力を失ってしまうかもしれない。
そんな自分の弱さと向き合い、克服する。最後まで感情を抑えて冷静に走りきる。自分のため、そしてチームのために。
予想どおり、レースはかなり厳しいものとなった。
「フロントだけでなくリアも滑りますし、もう全部でした。コーナーの進入がすごいオーバーステアで、ミッドコーナーではアンダーステアで最後(出口)はまたオーバーステアで、トラクションもかからずという状態で、本当に全体的にグリップがまったくない状態でした。
絶対、クルマに何か問題があると思うんですけど、FP2からチームが全力で探してくれたものの、なかなか見つからずに終わってしまいました」
つまり、ブレーキング時にはリアが不安定で、コーナーに入って行くとフロントが食いつかずに逃げていき、コーナーからの脱出でもリアのグリップが足りずに立ち上がっていけない。すべてにおいてグリップが足りず、ドライブするのが困難なマシン状態だった。
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