中野信治が角田裕毅に感じる「天性の速さ」。勝つために必要なものは? (4ページ目)
彼の所属するアルファタウリというチームは日本の文化を知るフランツ・トストがトップにいて、スタッフがみんな若いドライバーと仕事をすることに慣れていますし、ホンダがPUを供給し、新人ドライバーとしては理想的です。変なプレッシャーにさらされることがなく、彼が持っている能力を存分に発揮できる環境が整っています。
しかもチームメイトはガスリーというベンチマークになる存在がいます。これも角田にとって大きいと思います。ガスリーはレッドブルのようなオーバーステアでエッジの効いたクルマを嫌うタイプで、リヤがしっかりと安定し、ある種、誰でも乗れるようなクルマを好みます。
僕は、角田のほうがリアは軽めで、オーバーステア傾向のマシンでも乗りこなせるタイプだとみています。それからちょっとドライビングの幅も広いと思いますので、ガスリーよりも攻めたセッティングができる可能性があります。それがうまくはまっていけば、ガスリーよりも速く走れるはずです。おそらくチームの中では、どちらのドライバーの意見を優先してクルマを作っていくのかと、前半戦から綱引きが行なわれるんじゃないでしょうか。
前半戦でイニシアチブを取ることができれば、角田はもっと強くなるし、シーズン中にトップチームのレッドブルに昇格するチャンスもあり得ます。こんなことを言うと、「そんなに急がなくても、まずはF1に慣れて、徐々に力を出していけば」などと思う人がいるかもしれません。しかし僕だったらそういうことをイメージするし、それくらいの気持ちでやってほしいと思います。おそらく角田も意識しているはずです。
冒頭、角田はホンダが撤退した後を見据えた戦いをしなければならないと話しましたが、まずはガスリーをやっつけないと先が見えないと思います。今年限りでホンダが一旦いなくなってしまうので、彼にとっても時間はないですからね。焦らせるつもりはないですが、後半戦までにまとめてくるというのでは遅いんです。来年に向けた動きはシーズン中盤には動き始めます。そこまでにイニシアチブを取るぐらいの勢いをみせてくれると、我々としては楽しみですし、彼ならきっとやってくれると僕は思っています。
(後編につづく)
【プロフィール】
中野信治 なかの・しんじ
1971年、大阪府生まれ。F1、アメリカのCARTおよびインディカー、ルマン24時間レースなどの国際舞台で長く活躍。現在は豊富な経験を活かし、SRS(鈴鹿サーキットレーシングスクール)副校長として若手ドライバーの育成を行なっている。また、DAZN(ダゾーン)のF1中継や2021年からスタートしたF1の新番組『WEDNESDAY F1 TIME』の解説を担当している。
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