【F1】小林可夢偉、開幕戦「0周リタイア」の舞台裏

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 望外の予選Q2進出に沸くケータハムのスタッフたちの中で、小林可夢偉だけが一人、憮然とした表情をしていた。まともに走ることさえままならなかった開幕前テストの厳しさを思えば、予選15位というのは前年度最下位チームの開幕戦としては上出来と言える結果のはずだった。しかし、可夢偉が相好を崩すことはなかった。

今季の可夢偉はチームを牽引するリーダーとしての役割を求められている今季の可夢偉はチームを牽引するリーダーとしての役割を求められている

「これで喜びたくないっていうのが僕の本心です。チームを引っ張る立場としては、これで喜んでいる姿を見せるわけにはいかへんやろっていうのがある。スタート地点でここまで行けたことはチームとしては良かったと思うけど、まだここがゴールじゃないし。今の時点では順位っていうのはあんまり重要じゃないんです」

 何を聞かれても、可夢偉は15位という結果についての感想を語ることはしなかった。

「結果なんか見てないから。ホンマに周り(のチーム)なんて見てないし」

 そう言って、決勝に向けて周囲がポイント獲得の淡い期待を抱いていることにも関心を示さなかった。

 その可夢偉の表情を見ていると、不意にウインターテスト最終日のことが思い出された。

 相次ぐトラブルと伸びないラップタイムに、ケータハムに対するファンや関係者の期待は決して高くはなかった。もちろん、テストの内容や日々の進捗を見ていた者にはチームの成長とポテンシャルがあることは分かっていた。しかし、悲観的な見方をする声もあった。

 可夢偉にそうした質問を投げかけると、彼は珍しく感情を露(あら)わにして答えた。

「なんでそんなこと言うんですか? 僕らは一生懸命やっているし、そんな無駄なことを考える暇があったらクルマを速くすることを考えますよ」と、これから何カ月も先を見据えて進めている開発の話し合いについて蕩々(とうとう)と語ったのだった。

「僕らは目の前のこの1戦で勝負してもしょうがないんです。まずどうやってこのチームを良くして、開発に何が必要なのかっていうことを長い目で見て考えているから」

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