【F1】2013シーズン総括。王者・ベッテルが乗り越えてきた試練 (3ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

「2012年型タイヤに変わってから、いくつかのチームは代償を払わされた。ロータスもそうだしフォースインディアもそうだ。逆に、それまで速くなかったザウバーが速さを増してきた」(アロンソ)

 温まりの良くない2012年型タイヤをうまく使うためには、ホイール内側の熱処理システムと、空力面でエンジン排気を利用することがカギだと言われていた。どのチームもこの開発に注力し、タイヤ内側のアップライトには複雑な整流部品が装着されているが、これをうまくやり遂げたのがレッドブルと、後半戦で躍進したザウバーだとされている。

 そしてメルセデスとフェラーリはシンガポールGPをひとつの区切りとして、今季型マシンの開発から手を引き、来季の開発へ切り替えた。つまり、この時点で彼らは今季の年間タイトル争いとレースごとの優勝争いを最優先事項から外したのだ。

 その一方で、ロータスはホイールベースを延長するなど、マシン性能の向上を図ってきた。ロマン・グロージャンの成長も著しく、後半戦は常に表彰台圏内を走り、上位勢で唯一レッドブルに戦いを挑むことのできる存在になっていった。レースエンジニアの小松礼雄(あやお)はグロージャンの精神的な成長を高く評価している。

「クルマがいい状態でない時にも、落ち着いて走れるようになりましたね。金曜日が良くなくても、土曜日からそれを方向転換できるようになった。去年もできている時はあったんだけど、それを安定してできるようになった。タイヤを一定のウインドウ(作動温度)で働かせるのが難しい時でも、あれだけのレースができたっていうのは大きかったと思います」

 しかし、ロータスの予算規模はトップチームに比べると3分の1にも満たないと言われている。財政難は深刻で、ライコネンの契約金はおろかチームスタッフの給料まで遅配が発生しているという。当然、マシン開発に割くことのできる資金は限られており、レッドブルを上回ることは難しかった。それでもコンストラクターズランキングで4位になったことは十分評価に値するだろう。

 そんなライバルたちを退けて4連覇を果たしたとはいえ、ベッテルはどのレースも楽に勝利を収めてきたわけではない。タイヤの不安、マシントラブル、スタートシステムの不発、ライバルとのバトル、セーフティカーによる波乱、荒れた天候など、勝利を失ってもおかしくないレースはいくらでもあった。それでも彼が首位を守り勝利を収め続けたのは、1000分の1秒でも速く走るために常に努力を怠らず、それさえも含めてレースを心から楽しんでいたからだ。

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