「善戦マン」返上。サウンズオブアースが天皇賞・春で一変するぞ
ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
天皇賞・春(京都・芝3200m)が5月1日に行なわれます。
天皇賞は、秋に東京でも開催される伝統の一戦です。かつては、東京でも3200m戦で行なわれていましたが、グレード制が導入された1984年から、現行の2000mに距離が短縮されました。
その背景にはまず、3200m戦を目いっぱいこなしたあとでは、およそ1カ月後に行なわれるジャパンC(東京・芝2400m)の際に"お釣り(余力)"が残っていない、という懸念があったと思います。そして何より、世界で通用する馬づくりのために、競走馬のスピード強化を図る狙いもあったのでしょう。
当時、距離短縮には賛否両論あったようですが、結果として今、世界に通用する"強い"日本馬が存在しているのですから、その試みは正解だった、と言えるかもしれませんね。
一方で、今なお3200mという伝統的な距離で行なわれている天皇賞・春の重要性は、やや薄れてきています。競走馬のスピード志向が強くなってきたことで、種牡馬の価値もマイルから中距離辺りの実績が重視され、この一戦を勝つことに執着する関係者が減っているのです。ゆえに最近は、トップホースの回避も目立つようになってきました。
それでも今年は、中長距離実績十分の、昔ながらの日本馬を彷彿とさせる好メンバーがそろいましたね。見応えのあるレースになりそうです。
その中心となるのは、昨年の有馬記念(2015年12月27日/中山・芝2500m)の勝ち馬ゴールドアクター(牡5歳)です。
同馬については、有馬記念のコラムでも触れたとおり(※2015年12月26日配信「有力馬に不安あり。ゴールドアクターが有馬記念で波乱を起こす」)、一昨年の菊花賞(京都・芝3000m)3着のあと、翌年の函館まで休ませて成長を促したことが功を奏しました。以降、函館の1000万条件戦で復活すると、一気に4連勝を飾って有馬記念を制するまでに至りました。
普通なら菊花賞のあと、その後の有馬記念や翌春の天皇賞・春を目指したくなるところ。それを回避した陣営の、大英断と言えますね。
有馬記念の勝利がフロックでないことは、前走の日経賞(3月26日/中山・芝2500m)ですぐに証明されました。まさに横綱競馬というレースぶりで他馬をねじ伏せ、GI馬、グランプリ馬の貫録、風格を十分に漂わせていましたね。菊花賞での走りを見る限り、今回の距離もまったく心配はないでしょう。
唯一の懸念は、1番人気が濃厚ということ。1番人気で迎える大舞台は、騎手自身にもプレッシャーがかかりますし、他の陣営からのマークもきつくなりますからね。有馬記念では伏兵的な存在だったため、比較的気楽な立場で乗れたと思いますが、今回はそう簡単なものではないと思います。
そういう意味では、鞍上の吉田隼人騎手の力を試される場であり、手腕の見せどころでもあります。もし1番人気に応えて勝利をつかめるようなら、人馬ともに、さらに上のステージへと登っていくことでしょう。
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著者プロフィール
大西直宏 (おおにし・なおひろ)
1961年9月14日生まれ。東京都出身。1980年に騎手デビュー。1997年にはサニーブライアンで皐月賞と日本ダービーの二冠を達成した。2006年、騎手生活に幕を閉じ、現在は馬券を買う立場から「元騎手」として競馬を見て創造するターフ・メディア・クリエイターとして活躍中。育成牧場『N.Oレーシングステーブル』の代表も務め、クラシック好走馬を送り出した。