【競馬】日本競馬に精通した外国人ホースマンに芽生えた「野心」

  • 河合 力●文 text&photo by Kawai Chikara

海岸線近くの小高い丘の上にあるパカパカファーム。海岸線近くの小高い丘の上にあるパカパカファーム。『パカパカファーム』成功の舞台裏
連載●第10回

2012年にダービー馬ディープブリランテを輩出した『パカパカファーム』(北海道新冠町)の成功の秘密を探っていく好評連載。これまでは、同牧場のオーナーであるアイルランド人のハリー・スウィーニィ氏が、パカパカファーム開場までに手掛けたビジネスについて紹介してきた。今回からは、彼が日本で"牧場を開く"決断を下してからの行動にスポットを当てていく。

 2012年は、日本の競馬が改めて世界に強烈な印象を残した一年だった。何より、海外レースにおける日本調教馬の活躍は目覚ましく、4月には香港で行なわれたGIクイーンエリザベス2世カップで、ルーラーシップが世界の強豪相手に快勝した。秋には、凱旋門賞でオルフェーヴルが躍動。2着に敗れたとはいえ、凄まじい豪脚を見せて世界中を驚かせた。さらに年末、日本馬が一度も勝ったことがないGI香港スプリントで、ロードカナロアが強力な地元勢を撃破。歴史的な快挙となる勝利を飾った。日本の競馬は今、紛れもなく世界で重要な地位を築きつつある。

 こうした競走馬の栄光以外にも、思わぬところで日本の競馬が世界にアピールされたシーンがあった。今年1月末に行なわれたアイルランド・サラブレッド生産者協会(ITBA)による『2012 ITBA award』の授賞式で、日本の競馬に携(たずさ)わるホースマンの姿があったのだ。そのホースマンとは他でもない、アイルランド出身で『パカパカファーム』の代表を務めるスウィーニィ氏である。

『ITBA award』とは、その年に活躍したアイルランドの競走馬やホースマンを称えるもので、その表彰部門のひとつに『Wild Geese賞』という国外の競馬産業で成功したアイルランド人に贈られる賞がある。スウィーニィ氏はこの部門で表彰を受けた。

 言うまでもなく、昨年の日本ダービー馬ディープブリランテを生産した功績が認められての受賞である。1990年の来日以来、異国の地で奮闘し続けた彼にとって、母国アイルランドで得た栄誉は、ダービー制覇に匹敵する喜びだったかもしれない。

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