「飛ばない」山下美夢有が、ロングヒッターが猛威を振るう女子ツアーで強いわけ (2ページ目)

  • 古屋雅章●取材・文 text by Furuya Masaaki
  • photo by Getty Images

 まず注目したいのは、パーオン率(※パーオンは、パーの打数から2を引いた打数以内でグリーンに乗せることを言う。パー3なら1オン、パー4なら2オン以内、パー5なら3オン以内)だ。スコアアップにつながる最重要スタッツであるが、現在その首位の座を争っているのは、岩井明愛(73.7463%/1位)と山下(73.2547%/2位)である。

 山下より、およそ20ヤードも前から打てる(=短いクラブで打てる)岩井明愛のほうが明らかに有利に思えるが、その差はわずか。そこに、山下の強さの一端が表れているのではないだろうか。

「おそらく山下さんは、そもそもドライバーに関しては無理に飛ばそうと思っていないと思います。女子の選手にありがちな、飛ばそうと思った時に体を揺さぶり、クラブに振られるような動きが一切見られませんから。

 身長150cmと小柄ながら、頭がほとんど動かない、軸をきっちり保ったスイングで、インパクトでは顎先や目線がしっかり下を向いています。まるで練習場で球を打っているようなリズムで常に振っていて、その姿からはアドレスに入る前に決めたとおりに振るだけ、という意思が感じられます。

 飛ばすことに対する欲望もあるのだろうけど、そういった気持ちとクラブをうまくコントロールしているスイングなのかなと思いますよね」

 そう語る森口プロは続けて、山下がドライバーの飛距離にこだわらない点について次のように分析する。

「飛ぶ選手が7番アイアンで打つところで、山下さんはUTを使用するとしても、同じくらいの精度のショットが打てる、という自信があるからではないでしょうか。その背景には、父親でコーチでもある勝臣さんの指導によって、早くから弾道測定器(トラックマン)を使って、自分のショットと弾道の分析ができている、という強みがあるからだと思います。

 事実、解説の予備取材のために試合の練習日に話を聞いた時、彼女に各クラブの飛距離を聞くと、『7番アイアンは143ヤードです』という答え方をします。多くの選手は『140~150ヤード』と言ったりしますが、彼女の回答は明確。クラブごとの平均飛距離を、それだけ正確に把握しているわけです。

 そういった数字に裏打ちされた正確なショットが身についているからこそ、長いクラブでも精度の高い球を打てる自信がある。それで、ドライバーで無理に距離を出そうとしてラフにいくよりも、距離を抑えてでもフェアウェーから打つ、というマネジメントができているのだと思います」

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