奇跡呼ぶ渋野日向子。鈴木愛と追いつ追われつドラマのような「名勝負」 (2ページ目)

  • 杉山茂樹●取材・文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by Getty Images

 渋野のコーチ、青木翔氏が試合後、こう述べている。

「10番でバーディーを奪った時、『いけるかもしれない』と思いました。彼女らしい攻めの姿勢が、最終日の後半に入っても貫かれているように見えた」

 だが、続く12番パー3で、鈴木がバーディーを入れ返す。対する渋野は、鈴木とほぼ同じ距離からのバーディーパットを珍しくショートした。トップに立ったプレッシャーからなのか。

 いずれにしてもこの時点で、18アンダーで並んだ2人の戦いがますますヒートアップし、パット勝負になっていることを実感させられた。

 今季の女子ツアーで、両者は平均パット数(パーオンホール)のランキングでも1位(渋野)と2位(鈴木)を競う関係にある。鈴木vs渋野のバトルは、パット巧者同士の戦いでもあった。

 事件が起きたのは、15番パー4だった。第2打を1.5mにつけた鈴木が、渋野にプレッシャーをかける。だが、先に打った渋野が4~5mのバーディーパットを見事にカップイン。今度は鈴木にプレッシャーがかかった。

「ラインの真ん中に尾根があって、強いとカップを通り越してしまうし、弱いと切れる。思ったところへストロークできましたけれど......」と言う鈴木のボールは、無情にもカップの左を抜けた。

 通算19アンダーとして、単独トップに立った渋野。そこから、彼女にはツキがあった。

 16番パー3では、ティーショットを右に曲げてしまう。ボールがグリーンからこぼれた先には、難易度の高そうなガードバンカーが口を開けていた。観衆の悲鳴まじりのため息がこだましたが、ボールはバンカー手前の芝目に引っかかるように止まった。

 このホールは、渋野も、鈴木もパー。続く17番は、打ち下ろしの2オンが狙えるロングホールだ。どちらかと言えば、飛距離が出る渋野にとって、歓迎すべきホールだった。

 鈴木もそう思ったかどうか定かではないが、彼女のティーショットで乱れが生じた。鈴木にはツキがなかった。ボールはフェアウェー右脇の池に吸い込まれていった。

 絶対的優位な立場になった渋野。普通の選手ならリスクを避けて、第2打を刻んでレイアップしていたに違いない。グリーン手前には、2つの池が左右からフェアウェーを狭めるようにせり出しているからだ。だが――。

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