渋野日向子に人を引きつける魔力。取材対応に見たコメント力と大物感

  • 浅田真樹●文 text by Asada Masaki
  • photo by Getty Images

「なんでですかねぇ?」

 取材中、何度もそう言って首をひねる渋野日向子の周りには、何とも言えないほんわかとした空気が漂っていた。たった今、真剣勝負を終えたばかりのトップアスリートには、似つかわしくないほどの穏やかな空気である。

「"なん"で」ではなく、「なん"で"」にアクセントをつける独特のイントネーション。それが、渋野特有のものなのか、彼女の地元の岡山弁なのかはわからない。だが、報道陣とのやりとりを楽しむように、にこやかな表情で発するその何気ないひと言からだけでも、渋野の人柄は存分に伝わってきた。

 前日に東日本を襲った大型台風の影響で、18ホールから9ホールへと短縮されたスタンレーレディス最終日。首位と6打差からのスタートとあって、逆転優勝は絶望的かと思われた渋野は、優勝には手が届かなかったものの、スコアを4つ伸ばし、終わってみれば、優勝した黄アルムに3打差まで詰め寄っていた。

 なぜこれだけスコアを伸ばせたのか?

 アプローチが好調だった要因は?

 試合後、渋野はそんな質問を受けるたび、首をひねった。そして、頭の中でしばし思考を巡らせたあと、彼女なりの答えを――ときに笑いを誘うような、とぼけた回答を口にする。

女子ゴルフ界に登場した「新たなスター」渋野日向子女子ゴルフ界に登場した「新たなスター」渋野日向子 一躍、時の人となった"全英女王"の周囲は、ラウンド中はもちろん、ラウンドが終わってからも報道陣でいっぱいだ。渋野が優れたアスリートであるのはもちろんのこと、それと同時に、彼女の発する言葉に多くの人を引きつける魅力があるからだろう。この日も、"シブコ節"は健在だった。

 まずは、観客の安全を考慮し、無観客試合になったことについて。

「自分が打ったときにグリーンが見えないと、どこに乗ったとかわかんないし、そのときにギャラリーさんが『ナイスオン!』って言ってくれてたのがありがたいなって、あらためて思いました。(今日は)すっごい静かだなって。ギャラリーさんがいたほうが、私は燃えるし、楽しいのかなと思いました」

 そして、全英女子オープンを引き合いに、「1日目はあんまりだったのが、だんだんギャラリーさんが増えていって、それでだんだん楽しくなっていったっていう記憶がすごくある」ともつけ加えた。

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