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メッシが兄と慕ったアルゼンチンの先輩10番 全盛期のリケルメは「王様」だった (4ページ目)

  • 粕谷秀樹●取材・文 text by Kasuya Hideki

【リケルメは決して前に急がない】

 そして運動量が極端に少ないプレースタイルも「時代おくれ」と叩かれた。彼を支持する者は時代錯誤とまで批判された。

 考え方が一方的すぎはしないか。現在のフットボールはコンピュータが計測する無機質なデータと、マルチロールの名を借りた没個性が異常なほど重要視されている。野暮な時代になったものだ。

 リケルメはボールを動かして試合全体を完璧に、美しくコントロールしていた。常に考えながら最善のパスを心がけ、緩急の変換もお手のものだった。この動きによって、相手守備陣は前後左右に連続して対応しなければならない。しかし時間が経つにつれて、相手の動きは鈍っていく。あとはリケルメの思うがままだ。

 ファイターやランナーが主力を占める今、専門職やアーティストは二度と現れないだろう。2023年12月からリケルメが会長を務めるボカでも、ヨーロッパの強豪が秋波(しゅうは)を送るのはインタセプト能力に長けた守備的MFミルトン・デルガドだ。10番タイプが現れたとしても、ヨーロッパは興味を示しそうにない。

 それとも時代がひと回りしたのち、テクニシャンは再び脚光を浴びるのだろうか。現在のフットボールは忙しすぎる。決して前に急がないリケルメは、いつだって「粋」だった。

著者プロフィール

  • 粕谷秀樹

    粕谷秀樹 (かすや・ひでき)

    1958年、東京・下北沢生まれ。出版社勤務を経て、2001年、フリーランスに転身。プレミアリーグ、チャンピオンズリーグ、海外サッカー情報番組のコメンテイターを務めるとともに、コラム、エッセイも執筆。著書に『プレミアリーグ観戦レシピ』(東邦出版)、責任編集では「サッカーのある街」(ベースボールマガジン社)など多数。

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