三笘薫がゴールを決めても高評価を得られなかった理由 トッテナム戦で見たい「縦突破」 (3ページ目)
【ウイングバックの感覚に慣れてしまった?】
三笘はなぜ縦勝負を挑まなくなったのか。森保一監督が採用する3-4-2-1の4の左(左ウイングバック/WB)というポジションと関係があると見る。WBはウイングより平均ポジションが20メートルほど低い。サイドバック(SB)というウイングを下支えする選手もいない。WBはより低い位置での単独行動になる。強引な縦勝負には行きにくいポジションなのだ。このWB的な感覚に慣れてしまった可能性は否定できない。
より高い位置で構えるウイングは、ポジション的に自軍ゴールから遠く離れた場所になる。ボールを奪われる場所としてリスクは低い。「さあ、縦勝負を挑んでください」と言われているような場所なのだ。自慢のドリブル&フェイントを披露するに相応しい舞台である。
タッチライン際を縦に勝負しないウイングは、近距離で目を凝らすことになるスタンドの観衆には魅力的に映らない。
ポジション的に、あるいはプレッシング的に、奪われても構わない場所であるにもかかわらず、三笘は絶対に奪われないプレーをする。安全運転に終始する。縦と真ん中の関係が50対50なら相手は迷うが、縦という選択肢がないとなれば残るは真ん中。相手は守りやすいから、カットインも決まらなくなる。
ストライカーは点を獲ってなんぼだが、ウイングはストライカーではない。抜いてなんぼとは言わないが、主戦場はあくまでタッチライン際だ。縦勝負をトライしない姿に、見る側が魅力を見出すことはできない。
トッテナム戦で三笘と対峙する相手の右SBはペドロ・ポロ。スペイン代表のレギュラークラスの好選手だ。レベルの高いSBである。つまり、ここで活躍すれば目立つ。名前を売るチャンスなのだ。
今季初となる縦突破、マイナスの折り返しを決めることはできるか。その期待は得点と同じくらい、いやそれ以上に高まる。
日本代表の浮沈のカギを握ると言っても過言ではない三笘。その動向から目を離すことはできない。
著者プロフィール
杉山茂樹 (すぎやましげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。
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