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三笘薫がゴールを決めても高評価を得られなかった理由 トッテナム戦で見たい「縦突破」 (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

【ウイングかストライカーか】

 三笘のポジションはあくまでもウイングだ。そしてサッカーは、ゴールライン際からのマイナスの折り返しこそが最上級の決定機となる。得点の可能性が最も高まる瞬間だ。とはいえ、折り返すだけではアシストが精一杯で、ゴールは望めない。アタッカーとしての名声は上がらない。ウインガーといえども、得点はほしい。ウイングはそんなジレンマを抱えながらプレーしている。

 昨季の10ゴールはそういう意味で意義深かった。単なるウインガーからアタッカー色の強いウインガーに変貌を遂げたシーズンだった。ウインガー兼アタッカー。そのバランスが高次元で取れていた。

 ただし、ウインガー色が薄れたことは事実だった。ウイングのスペシャリストとしての魅力に、特に終盤、翳りが見えたシーズンだった。その流れが今季はさらに加速した様子だ。

 日本サッカーの話をすれば、かつては中盤にいい人材が集中する傾向があった。小野伸二、中田英寿、中村俊輔がその代表になるが、それがいまやウイングに代わった。三笘、そして久保建英はその代表だ。ウイングはつい10年前まで日本にほとんど存在していなかった文化だ。

 その象徴が、1990年にブラジルから帰国し、日本リーグ時代の読売クラブに入団した三浦知良だ。ブラジル時代、全国選手権で左ウイングとして名を売っていたカズは、帰国当初、両国のギャップに悩まされた。鳴り物入りで入団したにもかかわらず、最初のシーズンにカズが挙げたゴールはカップ戦等を含めても4点。アシストは7を記録したが、日本での評価は低かった。

 カズはその気配を察し一念発起する。ドリブルが得意なウインガーから、点が獲れるストライカーに転身を図ろうと自分自身を徹底的に改造。その結果、1996年のJリーグで得点王に輝くことができた。だが、セリエAのジェノアでそれは通じず、1シーズンで帰国する憂き目に遭った。

 日本に4-3-3や4-2-3-1がなかった時代だ。カズがウインガーとして勝負する環境が国内に用意されていれば、その後も欧州でウイングとして十分通用したのではないかと筆者は見ている。少なくともブラジル時代のカズは、かなりキレキレのウインガーだった。その進化形が三笘であり久保なのだろう。

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